【蒸留日記 vol.108】伐採で出たイチイ枝葉を蒸留する!
こんちわこんちわ!ラベンダー栽培家で蒸留家のエフゲニーマエダでっす!
本日はですね、自宅ハーブ園の整備作業にて管理不純と積雪とネズミの食害に遭ってどうしようもなくなったイチイの除伐作業をやってたのですが、わずかながらイチイの枝葉が出たので、そのまま土に還すのももったいないし蒸留してみっか〜ということでイチイ蒸留を試す運びとなりました!
突発的なリポート記事なので例のごとくvolナンバーが飛び飛びですが悪しからず(笑)
■イチイ(Taxus cuspidata)の簡単なプロフィール!
イチイはですねぇ…おいらは元林業マンなので林業マン的目線で第一印象を述べると、、、
伐採予定の山の中でこいつの中〜大木に出会えるともうお宝だー!と叫ぶほど高級木材が取れる針葉樹!といった印象の針葉樹でっす。
英語通称はJapanese Yewです。ジャパニーズイェウ。(イェウイェウ!)
▶︎植物学的な概要
その所以というのも、イチイ科イチイ属イチイ(Taxus cuspidata)はめっっっちゃくちゃ成長が遅いことで有名です。多分アカエゾマツよりも遅い。
しかも自然環境下では鬱蒼とした薄暗い森の中でしか育たないんですね。日陰が大好きというか日陰でしか育てない子です。
(だからといって日差しを浴びたら枯れるか?というとそうでもないのでご安心をw)
大木のナラやカエデがいる森の中にようやく大人〜5,6mほどの背丈のイチイに出会えるくらいなんですよ。
あとは里山や自然公園内にいる大きいイチイはみんな銘木扱いされてて自治体に保護されています。観光名所扱いになってしまうくらい希少なんです。
そういえば同じ樹木大好きnoterのharunire0321くんも記念すべき樹木図鑑1本目をイチイにしてましたね〜!
彼の視線でイチイを知りたいって方のためにリンク貼っときまっせ⤴︎⤴︎
植物学的には針葉樹か?と言われると怪しい部類
いま時期イチイは成熟した実を付けていないので知床自然センターのブログを引っ張ってきましたが、イチイは見た目針葉樹なのに松ぼっくりを付けないのです!
進化の過程で松ぼっくりという形態をやめてしまったのでしょうかね?
代わりに「液果」という潰すとグジュグジュしたイクラのような実を付けて、実の中心にタネが入っています。
これらは今日おいらが撮影したイチイの葉っぱの裏っかわの写真。
葉の下に小さくコロコロしたものが付いていますが、調べるとこれらが雌花らしいんですわ。
いわゆる未熟な果実ということになりますが、この時点だとかろうじて松ぼっくりに見えなくもない形態を残していますね…
この雌花が受粉完了すると、外側で果肉部分が育っていき赤く成熟してオンコの実となるよう。
赤いオンコの実の液果部分は食べることができて甘いらしいのですが、堅いタネの部分はめっちゃ毒。北海道民はみんな知ってるかも。梅干しの種みたいな感覚で認識していますが、毒成分はまた別種らしい…
イチイの毒成分がなんと抗がん剤に!
イチイの学名Taxus cuspidataはタクサスと読むんですが、タキソールという抗がん剤がありますね。この抗がん成分はなんとイチイの樹皮から発見されたそうなんです!
今まで実のタネの毒成分がそれなのかと思っていたら、どうやらイチイの樹皮に棲む菌類がタキソール(毒成分)を生成し、それを服用するとガンの増殖を抑制する薬理なんだとか。タネじゃなかったんだ…
▶︎林業上では
言い伝えですが、皇室に献上されるほどの高級な木材になる木なので「一位」と書いてイチイと呼ばれてるらしいです。真偽は定かではありません。
林業仲間から聞いた話ですが、すんごい昔(昭和中期ごろ)だと、オホーツクエリアや知床半島の森の中にイチイのそれなりに大きく育った大木がわりかし生えてたそうです。
その時代は自然保護や世界遺産ではなかった時代なので普通に収穫できちゃう時代だったそうなんですが、イチイは高級材になるのでそりゃもうイチイが採れれば儲けモンだったらしいです。
が、イチイを資源再生的な目線で見ると、中木くらいになるまで2,300年かかるくらい成長がえっげぇ遅い針葉樹。
なのでまぁ大木を切っちゃうとまず自分が生きてるうちに大木としてお目見えすることはないのが一般論でしょうね。
(ちなみに樹木を針葉樹・広葉樹と類別したがるのは林業業界人のクセらしいですよっと)
成長がえげつないほど遅い、ということはイチイの木材はめちゃんこ硬く締まっているという事。
なのでかなり堅い木材が得られ、家の家具材などというよりは木工細工や宮大工の部材なんかに使われます。
大昔は宮家や貴族しか扱えなかった高級材ということですが、現代は一応誰でも買えるくらいは出回っている木材なのでご安心を(笑)
▶︎北海道の都市部でのイチイ
森の薄暗いところでしか育たないイメージのイチイですが、昔より高貴な樹木とされてきたためか大正・昭和住宅には家の目隠しや生垣としてめちゃくちゃ定植されてます。それもニオイヒバと肩を並べるくらい植えられてます。
北海道の過疎地域でも、元住居跡にはイチイの庭木や並木が残っていたりすることが。
森に還りつつある廃墟跡でも不自然にイチイが並んでたりするのをみることができるんですが、なんせかんせ昔の人はイチイを庭に植えるのが好きだったようす。理由はわかりませぬ。
あと小中学校の校庭や役所の前庭なんかにも必ずと言っていいほどイチイが植えてあります。やっぱりイチイは特別扱いを受ける高貴な樹木なんでしょうかね〜。
と、イチイは山の中だけじゃなく都市部でもわりとよく見かける樹木なのですが、今思えば蒸留試す機会ぜんぜんなかったよなーと思い、庭木の解体とともに廃材活用して精油抽出試してみることに。
■材料調達!
今年春一番に、屋根まで影を伸ばして部屋を寒冷化させてたドロヤナギを解体したんですが、その後ろに続いて並ぶ形でイチイが植えられてます。
なおかつ街路樹の白樺の真下にいて陰深く湿ったエリアとなっている箇所。
この弱ったイチイを新たな園芸作物に置き換えるために解体令が出されました。
家の目隠しのために植えらたイチイなんですが、数年前の大雪の年にネズミ食害を受けてですね、以来見る影もなくなってしまっているんですわ。
ダメージ受けすぎて満足に回復できず。。。
(積雪期が長すぎてエサがなくなり仕方なくイチイ樹皮をかじったよう)
積雪深が2mともなるのでイチイは梢端まで根こそぎいかれたらしく、もう目隠し用の生垣としては役目を果たせていない状態。。。
葉っぱもここまで散らされてしまうと樹勢の回復も望めないし、こんな状態でも見栄えが悪いので素直に次の目隠し植物に世代交代してもらうことにしました。
■蒸留準備!
解体で出た葉付きのいい枝葉をもってきました。
イチイの葉っぱは堅く肉厚なのでわりとズッシリとした重みがあります。
なので精油抽出も意外と期待できそうですね!
このイチイ枝葉を例のごとく電動粉砕機にかけます。
植物概要で述べたようにイチイは木材が非常に堅い樹木なので、粉砕機のブレードを傷めないためにも太い枝は避けて細枝のみにしました。
イチイは堅い枝と葉っぱなので粉砕はすんなり終わりました。
やっぱ適度な工程機械化って大事だなぁ〜…
太い枝を避けたのでわりかし葉っぱ率高めです。
このときエフゲニーマエダは悟りました。
「アレッ…粉砕してても針葉樹的なスーッとした香りが一切しないぞ…?」
ズッシリ感あるイチイ枝葉を粉砕すると密度高めの粉砕素材ができあがりました。しかし匂いはかなり薄め…クロエゾ枝葉を粉砕した時のような感動が全く得られないことに嫌な予感が。
あまり際立った針葉樹アロマがイチイ粉砕素材から香ってこないので、念には念を入れて5キログラム分のイチイ粉砕素材を蒸留することにしました!
素材量それぐらいかき込めば1滴ぐらいは精油出てきてくれるでしょ〜〜〜という見立てで、香り薄ければ具増やせの理論でいきます。
あくまで針葉樹相手なので蒸留時間は2時間に設定しました。
■蒸留結果は…!?
まっっったく精油出ませんでした!!!笑
いやぁ…意外でしたね、一応針葉樹のハズなんですが…
というか針葉樹はみんな何かしら精油出るものだと思ってました。
まったく出ませんでしたねぇ😂
1.収油率
まったく精油が出なかったのでデータナッシングです…。
2.香りとか(芳香蒸留水のみ)
芳香蒸留水もそこまで強い香りがあるわけじゃないんですが、特段良い香りでもなくなんか青っぽい生木の香りしかしないので、レビューはその程度に留めておきます。本当になんの感動も得られなかった…w
試しに蒸留水飲んでみたんですけど、やや酸っぱいのとほんのり甘いのと、まぁそこまで嫌な味はしないが青っぽい風味の芳香蒸留水でした!
…そういえば飲んだ直後に思い出したんですが、イチイの実/いわゆるオンコの実ってそういえば毒持ってたよなぁ…と。
まぁ葉っぱや樹皮などにはそこまで致死性の猛毒は含まれてないでしょう!ネズミも食うくらいだし!ということで。。。
■総論!!
見ての通り、イチイ(Taxus cuspidata)の枝葉からは精油がまったく採れませんでした!笑
なので太い主幹なんかを乾燥させるなりして製材工場に売ってあげるのが無難な処理方法でしょうかね…。
ということで、水蒸気蒸留によるアロマ的展望は無し!!笑
P.S.そういえばハーブ辞典で…
時持ちの分厚いRHS出版のハーブ辞典に、なんとイチイがハーブとして紹介されてるんですよね。
えっヨーロッパ圏じゃイチイ属おまえハーブ扱いなの!?と正直驚き。
一応果肉(オンコの実)は可食ですが、タネや樹皮は毒扱いだし…
で説明を読んでみると、やはり解説内容は抗がん剤成分が発見された!という内容と宗教においてのイチイの扱いと家畜がイチイの葉っぱを食べて即死しているのがよく見つかるという内容。
ヨーロッパにおいてのイチイはマジな猛毒植物らしいのです…。