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「秋田のターシャ」と呼ばれて」 佐々木利子
「私が庭を通して伝えたいのは「命も花も永遠でない。だから今なんだよ」ということ。」
「秋田のターシャ」と呼ばれて」 佐々木利子
ターシャ・テューダーの本の言葉に癒され、ターシャのガーデンの写真を見た瞬間から、ターシャのガーデンに憧れるようになりました。
それ以来、ガーデン雑誌を見たり、園芸店にもよく足を運ぶようになりました。
そんな折に、「秋田のターシャ」というタイトルに惹かれて本書を購入、本を開くと、そこには素敵なガーデンが広がっていました。
まるで、ターシャの庭のようでした。
くりかえし、ターシャのガーデンのDVDを見ていたので、日本にもこんな素敵なターシャのようなガーデンがあるんだと驚きました。
秋田県にかほ市にあるガーデンカフェ「Time」
バスも電車も通らなく、「行くぞ!」と気合を入れて行かなくては辿りつけない場所にあるガーデンカフェなんですね。まるで、秘境にあるパワースポットのようです。
この本の著者で、ガーデンカフェ「Time」のオーナーが、佐々木利子さん。
この場所はもともと荒れ果てていた竹藪で、佐々木さんひとりで開墾し、美しい癒しのガーデンとして生まれ変わらせたのです。
きっかけは、佐々木さんのお父さんが病に倒れ、亡くなったこと。
そのとき
佐々木さんを励ましたのは、花と料理が大好きな3歳年下の妹さんでした。
2人は、こんな夢を抱いていました。
いつか実家の裏庭に小さなガーデンカフェを開き、自分たちの育てた花を見てもらい、つくった料理を食べてもらいたい……。
なのに
お父さんの一周忌後、お母さんと妹さんが相次いで病に倒れ、1年後に2人が亡くなったというのです。
悲しみに打ちひしがれた佐々木さんを突き動かし、奮い立たせたのが、生前の妹さんとの約束でした。
「妹は本当に前向きに頑張ったけど、3人の幼い子どもを残して逝かなければいけなかった。その気持ちを考えると、決して無駄には生きれないと思ったの。
私の命もいつまであるかわからない。だったらやらないで後悔するよりも、やって後悔したほうがいい。妹のためにも、約束をはたさなければ」
そうして
たったひとりで、荒れ果てた竹を一本一本切り、鳥海山の噴火によって飛んできた噴石を手で運び、素敵なガーデンをつくりあげたのです。
しだいに、口コミでお客さんが増えてきました。
きっと、佐々木利子さんのこんな気持ちに、お客さんは全国から訪れるのでしょう。
「ここらへんの人は、お金になるものを植えるのがあたりまえ。私が花を植えるのを見て、食糧難に育った母にも生前『花いっぺ(いっぱい)あっても。腹いっぺにならね』って言われたしね。
でも、『生きるために食べるものは大切だけど、心のバランスには花やガーデンが必要』と言ってくれる人もいる。そういう人がいる限り、花を育て続けたい」
「ここに来る人は、ただ食事をしたり、花を見に来るんじゃなくて、感じたことを言葉にして帰っていく。そして、お客さん同士も自然と会話をしていく。それはきっと、花と庭の空間の力だと思う。
幼い頃、父に『ごっつぉ(ご馳走)出すのが、ごっつぉじゃない。さぁ、よく来たって気持ちがごっつぉだ』と言われたけど、庭の中に妹や親がいて『よく来た』って迎え入れてるんじゃないかって思えるのね」
私が庭を通して伝えたいのは「命も花も永遠でない。だから今なんだよ」ということ。
生きたくても、生きれなかった妹を思うと、私に残された命と時間を精いっぱい生きることが、彼女に報いると思えたのです。
素適なガーデンと佐々木利子さんの言葉の香りは、ターシャ・テューダーのようでありました。
【出典】
「秋田のターシャ」と呼ばれて」 佐々木利子 主婦と生活社