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映画評 ラストマイル🇯🇵
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テレビドラマ『アンナチュラル』『MIU404』の監督・塚原あゆ子と脚本家・野木亜紀子が再タッグを組み、両シリーズと同じ世界線で起きた連続爆破事件の行方を描いたサスペンス映画。
流通業界最大のイベントである11月のブラックフライデー前夜、世界規模のショッピングサイトの関東センターから配送された段ボール箱が爆発する事件が発生する。関東センター長に着任したばかりの舟渡エレナ(満島ひかり)は、チームマネージャーの梨本孔(岡田将生)と共に事態の収拾にあたる。
『アンナチュラル』『MIU404』は一話完結のストーリーの中に、社会問題をテーマにしている話があることが特色だ。労働問題や闇金問題といった王道の展開からいじめや女性問題など踏み込んでいるものまで。
本作が踏み込むのはタイトルからも連想される通り物流問題。物流の2024年問題が記憶に新しい通り、ドライバーの人手不足、低賃金労働、時間外労働規制による荷物が届かないリスク、個人宅配業者への皺寄せなど、今だからこそ描き問題提起する上ではテーマとして申し分はない。
舟渡エレナが勤務する宅配センターは彼女を含め正社員は9人。警備員を除けば、他は派遣社員ということもあり賃金格差の実態を大々的に見せつけられる。首が回らず言いなりになる配送会社、配送会社から注文宅へと荷物を届けるも低賃金で契約せざる得ない個人配送会社。業界を牛耳られたことによって、労働に見合う賃金が得られていない配送現場は、現実問題とリンクせざる得ない。さらに外資と支社の歪んだ関係性も踏み込んで描かれる。
舟渡エレナが度々発する「お客様のため」が頭から離れられない。宅配料金を安く抑え、早く荷物を届けることによって生じたドライバー軽視。爆発事故が起きても配送を辞めさせない、正確には辞めることができないのは、人命を軽視してもなお常に走り続けなければならない経済活動の負の側面と言える。善意が人を苦しめるはこのことか。
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本作の最大のフックは『アンナチュラル』『MIU404』とのシェアードユニバース。テレビで見たあの登場人物がスクリーンで会える点にあるのだが、雑な使われ方をされていたのが気になる所。
『MIU404』の主人公の志摩と伊吹は、家宅捜査し上司に報告するだけの繋ぎ役でしかない。『アンナチュラル』キャストはもっと雑で、観客に伝えたいメッセージを台詞で喋らせるだけに留まり、出演させる意義を感じられない。酒井芳演じる刈谷刑事と大倉孝ニ演じる毛利刑事がバディを組んでる所は胸熱だが、それ以上にシェアードユニバースの有り難みや必要性がなく、出演させることが目的になった感は否めない。
監督の塚原あゆ子は経済活動の歪みはどこから来るのかという疑問を「欲望を煽る企業なのか、それとも客の純粋な欲望からなのか、ニワトリと卵の関係」と語る。しかし、描かれ批評の対象となったのは善意を踏み躙った企業のみ。
物流問題をはじめ経済活動の歪みを描きたいのならば、濁さずに客の欲望という点にも批評的な視線を向けるチャレンジをするべきであった。質の高いサービス質の高い商品を求める割には賃金を支払いたくない姿勢、安価で質の低い商品に手を出す安易性、買ってはすぐに捨ててを繰り返す生活習慣など、サービスを利用する分、無関係ではいられない。
正直な所、本作は「物流で働いてる人たち大変だね」としかならず、綺麗事を含んだメッセージも他人事でしかない。『ファイト・クラブ』や『ゼイリブ』といった客の商品を欲しがるマインドを皮肉ったり批評したりする作品は大勢あるため、作り手の日和を見せず、リスクをとってでもチャレンジして欲しかった。