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映画評 侍タイムスリッパー🇯🇵

(C)2024未来映画社

現代の時代劇撮影所にタイムスリップした幕末の侍が時代劇の斬られ役として奮闘する姿を描いた時代劇コメディ。

幕末の京都。会津藩士の高坂新左衛門(山口馬木也)は、長州藩士の侍と刃を交えた瞬間、落雷によって気を失ってしまう。目を覚ますと、そこは現代の時代劇撮影所だった。新左衛門は行く先々で騒動を起こしながら、江戸幕府が140年前に滅んだことを知り、がく然とする。一度は死を覚悟する新左衛門だったが、心優しい人たちに助けられ、生きる気力を取り戻し、やがて磨き上げた剣の腕だけを頼りに、時代劇の斬られ役として生きていくことを決意する。

映画におけるギャグの描き方はただ一つ。登場人物らが真面目に取り組んでいることだ。顔芸や体全体を用いたオーバーリアクション、そして見ればわかる状況説明のツッコミ。邦画で描かれる良くないギャグシーンは一切ない。登場人物全員が真剣に取り組んでいるからこそ緊張と緩和によって、劇場を爆笑で包み込む。

特に主人公の新左衛門が本気で斬る、斬ろうとするため一級品のギャグへと仕上がった。タイムスリップした直後に助太刀しようとするも監督に怒られるシーンや斬られ役を学ぶも強すぎて逆に勝ってしまうシーンは思い出すだけでも笑ってしまう。新左衛門の真剣な姿勢やタイムスリップなど様々な要素が適度にまとまった上でのギャグであると評価できる。

真剣なのはギャグだけでなく殺陣シーンは固唾を飲むほど緊張感に包まれる。あれだけ爆笑に包まれていた温かい雰囲気が何処へ行ったのか戸惑うほど迫力が画面越しから伝わってきた。真面目に描いているのは決してギャグだけではなく、アクションや演技、本作に関わる全てが真剣であると観客に強く訴えかけてくるように。口コミから広がるのは奇跡ではなく実力が評価された当然の結果だ。


(C)2024未来映画社

侍魂と時代劇が時代を経て変化している共通点に触れているのも本作の面白いポイントであり、ギャグ以上に感動できる描写だ。

「本格的な時代劇は週に一本放送されていれば良い方」。現代日本のエンターテイメント業界における時代劇の立ち位置を的確に表した台詞だ。本格的な時代劇は大河ドラマを除いては、昼の再放送でしか見ない。映画では年に一、二本は見かけるが黒澤明が現役であった頃と比べると大幅に減少しているのは否めない。

それでも「時代劇で面白いものを作りたい」という作り手の想いは変わらない。『碁盤斬り』や『藤枝梅安』のような本格派もありつつ、『十三人の刺客』や『十一人の賊軍』のようなハリウッド的派手さを楽しむものや『るろうに剣心』シリーズのようなアクションに振り切ったものなど、時代の変化と共に時代劇の形を変えながら多くの観客を楽しませている。

時代の変化という点では良き日本国を作るという武士の想いも形を変えながらも引き継がれている。「侍といえばサッカー日本代表」と自虐混じりに時代劇の現状を語る台詞は、裏を返せば侍魂は違った形で尚且つ日本人の精神として受け継がれていると言える。

新左衛門がショートケーキを食べて「日本はいい国になったのだな」と涙を流すシーンは、思いは形を変えながら未来の人たちへと受け継がれて行くことを示している。それは新左衛門が時代の変化に合わせて斬られ役へと志願したように。侍の役目が兵士から時代劇の役者へ。侍魂が侍だけのものから一般的に普及したように、時代劇も時代の変化に合わせた楽しませ方を模索しているのかもしれない。

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