ムンディ先生渾身の「経済の世界史」が教養となり、より「カタン」のプレイがおもしろくなる!?【山崎圭一『一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書 経済編』SBクリエイティブ】
いきなりだが、「カタン」というボードゲームがある。
土地の境目に開拓地と道路を置き、サイコロの出た目によってレンガや麦、木などの資源を獲得する。この資源が道路となり、開拓地となり、更に発展して都市となる。開拓地を多く置けばそのぶん資源もたくさん手に入り、都市として発展すればもらえる資源も2倍となる。さらにどうしてもほしい資源があれば「麦とレンガを交換しませんか?」などとほかのプレイヤーに持ちかけることもできる。そうして10ポイントをいち早く獲得できたプレイヤーが勝つ、というゲームだ。
なんでいきなり「カタン」の説明をしたのかと言えば、このボードゲーム、「経済の発展」そのものだと、ムンディ先生の新刊を読んではたと気がついたからだ。
『一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書』『一度読んだら絶対に忘れない日本史の教科書』に続く、9万人の登録者数を誇る社会科教員YouTuberムンディ先生こと山崎圭一先生の新刊は、世界史の「経済編」。つまり通史ではなく、お金やモノのやり取りにスポットライトを当てた世界史の本だ。装丁の黄色さに明るい気持ちになりながら、今回もたのしく読了したのだけど、まさかこの本で「カタン」を想起するとは思ってもいなかった。
というのは、この本を読んでいると、「経済」というのは何もお金や紙幣のやりとり「だけではない」ということに気付かされたからだ。
たしかによくよく考えてみれば、「大西洋の三角貿易」では黒人奴隷や白い砂糖、武器、雑貨などがやり取りされていたわけだから、人やモノの移動はわりと一般的な「経済」の一種ではある。しかしこの視点が僕には欠けていた。欠けていた、というか盲点だったと表現したほうがいいか。とにかく、本を開いて読み進めているうちに「ああそうか、経済ってお金だけじゃないよな」ということに気がついた。
たとえば、イギリスは第一次世界大戦に際して、世界各地のイギリス植民地から人(兵士)のみならず様々な物資や資源をも調達した。オーストラリアからは鉄鉱石やボーキサイトを、マレーシアからは天然ゴムを、カナダからは穀物を結集して臨戦態勢を築いていった。そう、ここで植民地から資源を回収し、それを発展につなげていく「カタン」が出てくるのだ。
それだけではない。世界史の最初も最初にさかのぼっていけば、自らの生活範囲では手に入らない穀物を手に入れるために、羊や岩塩を交換していたメソポタミアの遊牧民の話がある。要は狩猟などの獲得経済から農耕や牧畜などの生産経済に切り替わって、穀物などの蓄積が可能になったことによって経済というものがはじまったということなのだが、これも「カタン」そのものだ。開拓地に必要な足りない資源を、余らせている資源を差し出すことによって誰かと交換し、手に入れる。そういえば今日もカタンで遊んでいるとき、僕は石を引き換えに木を調達し、道路を建設して「最長交易路」のボーナスポイントを手に入れた。
メソポタミアの時代からやっていた原始的な「経済」を、今我々はボードゲームという形で繰り広げている。たったそれだけのことに気づくことでも「カタン」と言うボードゲームの見方が大きく変わるし、プレイの幅も広がっていく。これが「教養」というものだと思う。教養があると人生が楽しくなるし、タモリは「あればあるほど遊ぶ材料になる」と教養について述べている。
いつもたいへんお世話になっているムンディ先生の新刊が30歳の誕生日に届き、カタンがよりおもしろくなるという「教養」を授けてもらった。これだけでも買ってよかった。経済史もさることながら、あらためて「教養」というものの奥深さを知った一冊だった。
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