書評「モチベーションの心理学」
読んだ本
鹿毛雅治『モチベーションの心理学』中央公論新社
はじめに
以下に載せる書評は、某公的機関に提出した文章であるが、4月現在で役目を終えたため、こちらに転記することにした。
書評
序論
この本は、やる気や意欲といった心理現象に関する理解を深めることを目的として書かれている。
目標説、自信説、成長説など異なる切り口で分類した理論群を俯瞰した後、現代の心理学として環境説を紹介している。
終章で著者は、能力等を「得る意欲」や、人格者等に「成る意欲」よりも、習慣や態度を基盤とした「居る意欲」こそが達成の重要な要素ではないかと述べている。
筆者の主張には賛成する。
ただし、なぜ「居る意欲」が達成に繋がるのだろうか。
「現代の心理学では、(中略)モチベーションを『人と環境の相互作用』のプロセスや結果として位置づけている」(30頁)と述べられていることから、ここでは人と環境の相互作用に着目したい。
本論
まず、「居る意欲」とは、自己実現への欲求と言えるだろう。
マズローの欲求階層説によれば、自己実現への欲求のみが成長欲求であり、欠乏欲求とは明確に区別されている(58頁)点は興味深い。
自己実現への欲求のみが発展的に展開する成長欲求であることは、「居る意欲」が達成の要因であることを根拠づけると考えられる。
「居る意欲」のみが尽きることのない意欲として継続的に人をより高みへと到達させ、結果的に達成に繋がると考えられるからだ。
さらに、目標伝染という、他者の目標を無意識に真似る現象があると言われている(336頁)。誠実さを基盤とした「居る意欲」が高い人が集まっている環境では、それらの人の影響を受けて、互いに個性を尊重し、達成を援助するような環境が形成されていくのではないだろうか。
結論
以上から、「居る意欲」のみが成長欲求であり、さらに、「居る意欲」を持つ人を中心として目標伝染が生じて環境が改善されることが、「居る意欲」が達成の要因となる理由と考えられる。
以上