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【本考察#019】 『戦争と交渉の経済学: 人はなぜ戦うのか』 by クリストファー・ブラットマン

戦争の根本原因を解析する本。戦争の構造を示す「戦争を引き起こすもの」と、平和への道筋を探る「平和をもたらす術」の、2つの大きな論題から構成されていて、非常にわかりやすい良書でした。

その中でも個人的に印象に残った、「抑制されていない利益」、「不確実性」、「チェックとバランス」について考察をまとめていきます。


第1部 戦争を引き起こすもの

第2章: 抑制されていない利益


リーダーや政治的エリートが個人的、または集団的な利益のために戦争を引き起こすという概念のお話。
この概念は一般的に「エージェント・プリンシパル問題」と呼ばれる問題の一例のようで、リーダーは利益を享受するものの、戦争のコストやリスクを直接的に負担しないため、衝突を起こすインセンティブがあるというもの。

リーダーやエリート層が個人的な利益のために戦争を引き起こす傾向は、資源富豪国家で特に顕著だと言及されていました。Le Billon 氏の研究によると、1990年代における内戦が発生した23カ国中20カ国が主要な商品の輸出国であり、政府収入の25%以上を資源から得ていたことが明らかにされているようです。。。
戦争をビジネスの道具にするなんてとんでもないですが、その経済規模も計り知れないうえに自分に直接的なリスクがないわけなので、彼らにとっては「Yes」という返答も検討する余地があるものなってしまうんでうすね。。


第4章: 不確実性

不確実性は、情報の非対称性や、相手の意図、能力、および行動に関する不確実性から生じる戦争の原因です。ゲーム理論、特に不完全情報ゲームは、この不確実性がどのように戦略的な相互作用に影響を与えるかを解析するための鍵となるのは間違いありません。不確実性が高いほど、誤解や誤算のリスクが高まり、結果として衝突が生じやすくなり、その規模がもっと大きくなると戦争を引き起こしてしまう要因になるとのこと。

相手の真の軍事能力や意図を知ることができない状況では、紛争を回避するための交渉が失敗しやすく、実際、紛争の約50%がこの種の情報の非対称性から生じる可能性があることを示唆されているようです。


第2部 平和をもたらす術

第8章: 抑制と均衡

政治システム内の抑制と均衡が戦争を防ぐ方法についての章。民主主義国家では、政策決定プロセスにおける多様な意見と制度的なチェックが、衝動的または利己的な決定を抑制すると言われているようです。例えば、三権分立における議会制度や司法の独立は、リーダーが権限を持たないことで行動に制約を加えることができ、より慎重な外交政策を促進するために機能しているということでした。

政治的意思決定における抑制と均衡が戦争の回避に役立つことは度々主張されているようです。これは「ベトー・プレーヤー理論」(異なる機関が政策決定に関与することで、一方的または衝動的な決定が抑制され、より包括的で慎重なアプローチが促進されるというもの)でも主張されていて、民主的な体制が戦争を起こしにくいという経験的な証拠とも一致しているとのことでした。


上記のような観点で民主主義の政治体制を捉えることがなかったので非常に身になる内容でした!ネタバレになりすぎないように3つしか言及していないませんが、他の内容にむしろもっと学びがある部分もあったので、教養を身につけるという意味でも何かいつもと違う本を探している方にお勧めです!


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