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無償化が必要なのは「大学」ではなく「大学院」
一昨年前から「高等教育の修学支援新制度」(大学無償化)が実施されています。
所得制限が現状では所得制限が厳しく、多くの人が利用できる制度ではないものの教育機会の平等化に大きく貢献する制度と言えます。
しかし、それと比較して大学院への進学に対しての支援はいまだ充実しているとは言えない状況です。
どうにかなる大学の学費
以前書いた記事でも紹介しましたが、学生支援機構の奨学金(実質は借金ではありますが)などの修学支援制度自体は日本でも存在しています。
また、学費を抑える選択肢も存在しており、学習意欲がある程度高ければ進学をすること自体は難しくなくなりつつあると思います。
大学進学率が上昇する中で、借金をしてでも大学に行く価値を感じる人が増えたと言えるでしょう。
相対的に低学歴化する日本
では大学院への進学はどうでしょうか。日本における博士前期課程(修士課程)は基本的に研究者ではなく学生として定義されます。
そのため学部と同様に学費を大学に払って学ぶ事になります。
(後期課程では研究者として認められるため学術振興会などの準公的機関から援助を受けられるケースもあるようです)
また、日本においては学部卒と院卒を分けて採用しない社風の企業も多く、文系の場合下手すると年齢の関係などから不利になるケースまで存在します。
その結果主要国の中でも大学院進学率が非常に低い国となっています。
世界では大学院への進学率が伸びる中、日本では長引く不景気もあり修士、博士の取得者が減少している状態です。
かつては企業が人材育成機能を担っていた
高度経済成長からバブル期にかけては、民間企業自身が社会における人材育成機関として機能していました。
自社で必要な技術や知識をなるべく早く教育したいという考えもあって、大学院卒の学生を好まない風潮もあったようです。
しかし、長引く不況により企業は人材育成を行う余力を失っています。
技術力の低下も問題となり、最先端の技術や知識を得るためには大学院などの研究機関での教育が不可欠となりつつあります。
また、社会科学の観点から企業の経営や方針決定に対して科学的アプローチを求める声も強まっています。また、情報科学との結びつきも求められています。
にも関わらず、技術系の企業や業種、役職以外での採用は優遇を受けていないのが実態です。
経済的な理由での進学断念は多い
こうした現状のため、大学院への進学に対して二の足を踏むケースも多いようです。
特に奨学金を借金として抱えたまま、さらに2年、しかも卒後、優遇を受けられない可能性を残した上で追加の借金をするのは難しいでしょう。
また、一度大学を卒業した人材の再教育においても、職場に籍を残して大学院に通うことができるのは、福利厚生のしっかりした大企業などのみです。
その上、学費の負担が上乗せされると生活の不安から断念するケースがほとんどで、これでは門戸が開かれているとは言えない状況です。
「大学院の無償化」こそが社会のベースアップに
文系の学生を含め、修士、博士などの学位取得者を企業や自治体の中に増やすことは、学問の世界での研究成果を通常業務にフィードバックの機会を増やすことに繋がります。
そのためには、学部卒後の大学院進学者を増やしたり、学びなおしによる大学院への入学のハードルを下げることが必要です。
そして、その端的な解決方法こそが「大学院無償化」ではないでしょうか。
現在、博士後期課程においては国の支援制度も始まっています。
この施策の実効性の判断はまだこれからだとは思いますが、施策の意図は十分に評価できるでしょう。
次の一手として、もっと間口の広い博士前期課程への進学を促進する施策、「大学院無償化」を期待したいところです。