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大学受験数学における、中高一貫と「先取り」の優位性

私は私立高校で主に大学受験の進学指導を担当しています。

勤務校においても、難関大学や国立大学の医学部を目指している生徒が複数存在します。

私自身は数学科の教員として指導を行った経験も踏まえて、数学の学習進度に関して考察したいと思います。

アウトプットの充実こそが重要

大学受験において最も重要なことは演習時間をいかに確保するか、という1点に尽きます。

授業や教科書=インプット、演習=アウトプット、と考えるとわかりやすいと思います。

どれほど優秀であっても、教科書を一通り読んだだけ=インプットのみ、では入試問題を解けない場合がほとんどです。
(極稀にそういう人も存在しますが、比較する意味はないでしょう)

数学の場合、基本的な定理や性質、一般的な例題などをまずはインプットします。

その後、類題や入試問題の過去問や模擬試験の問題を使ってアウトプットを行う。

インプットに不足が見つかれば、再度インプットをして、アウトプットでさらに確認を行う。

この流れが極めて標準的な大学受験数学の学習方法です。

公立高校のカリキュラムと大学受験

一般的な公立の普通高校の場合の学習進度やカリキュラムは

  • 中学:中学数学

  • 高1:数学ⅠA

  • 高2:数学ⅡB

  • 高3:数学Ⅲ

という流れです。数学Ⅲを終わるのがさすがに年度末ということはないのですが、大体は高校3年生の夏休み明け、秋ぐらいになると思われます。

おそらくは、高1の数学ⅠAを3ヶ月ほど前倒しにして終了し、その後数学ⅡBに入るというのが最も多いケースだと思います。

正直、このスケジュールだとかなり演習時間を確保するのは難しいです。

高3の1月中旬には共通テストがあり、その対策をするために11月ぐらいから共通テスト対策に受験勉強をシフトします。

そうすると、数学Ⅲのアウトプット学習は実質1ヶ月と半月ぐらいしか確保できません。

もちろん、その後2月の末の国公立大学の受験日までは1ヶ月ありますが、その時点で2ヶ月ほどブランクがある数学Ⅲの復習に入るのはかなり厳しいスケジュールです。

中高一貫校のカリキュラム

では、一般的に大学受験に有利と言われる私立の中高一貫校のカリキュラムはどうでしょうか。

ここでは、開成や灘といった超有名進学校ではない、一般的な進学校で考えます。
(だからといって上記の学校が極端なカリキュラムというわけでもないのですが)

  • 中2:中学数学

  • 中3:数学ⅠA

  • 高1:数学ⅡB

  • 高2:数学Ⅲ

  • 高3:演習

まるまる1年間を前倒しして学習しています。

ここで重要なのは、高校数学の場合はある程度の進学校であっても数学ⅠAやⅡBの学習で1年弱は掛かってしまうということです。

したがって、時間を圧縮するためには中学数学をいかに早く終わらせるか、ということがポイントになるわけです。

数学Ⅲの重みと受験の可否

数学Ⅲは理系大学を受験する場合には比重の大きい科目です。

国公立大学の記述試験において、仮に大問が5問あった場合2〜3問は数学Ⅲからの出題になります。

この傾向は難関大学において特に顕著であるです。

そのため、実質的に東京一工や医学部、旧帝大、早慶を受験する場合は数学Ⅲの終了時期が受験の可否を決めると言えます。

さらに言えば、地域の国公立大学などを受験する場合においても、最も重たい数学Ⅲが早めに終わっているというメリットは大きく、理科や地歴に学習時間を割けることになります。

反論と実際の調査結果

これまでの内容に対し

「僕は公立高校から〇〇大学に、先取り学習せずに普通に通りましたよ」
「うちの子は部活を夏までやって、そこから〇〇大学受験に間に合った」

という反論が飛んできます。

確かにそういう例は存在するでしょう。

巷には教科書を7回読んだだけで東大に合格する人もいるようですし。

しかし、明らかに一般的な事例ではない、ということです。

東大理系合格者の高校数学修了時期 https://kyodonewsprwire.jp/release/202104304414

上のグラフは東進を運営する株式会社ナガセの調査によるものです。高校数学修了時期は合格者の8割が高2までという結果です。

どちらがマジョリティでどちらがマイノリティかは一目瞭然です。

「先取り」と中高一貫の優位性

「先取り」学習は極めて有効で、有利な戦術です。

大学受験をする年齢層がある程度固定化された日本の現状においては、時間を確保する手段として中学校の比較的負担の少ない学習カリキュラムの圧縮が最も効率的です。
(この日本の現状は異常で、大学受験をする人が18歳ばかりである必要はないと個人的には思いますが)

そして、「先取り」を有効に機能させるという観点において、高校受験によって学習を分断されない中高一貫校のカリキュラムは極めて優れています。

私の勤務校も併設中学校を抱えているためポジショントークになりますが、大学受験においては中高一貫校はやはり圧倒的に有利です。

ちなみにですが、英語においてはこの優位性はさらに顕著です。

ところが数学ほど中高の科目分断がおきないため、外からはわかりにくくなっています。

指導要領と受験の矛盾

このように、学習指導要領における履修時期を遵守した場合、大学受験においては極めて不利になるという現状は教育制度上の大きな問題でしょう。

ただ、これを制度的に解決する必要があるのかは難しいところです。

すでに私学や塾、予備校などの民間企業がその穴を埋めるという構図も出来上がっているからです。

「先取り」学習は効果的ですが、ペースについていけない生徒も多く存在します。一方で大学受験をしないという選択もあります。

別に難関大学に行くことが人生の幸福に直結するわけではありません。

幸福感と偏差値には相関はありませんし。

http://www.abef.jp/archive/event/2016/pdf_abst/B2_PR0027.pdf

(↑偏差値とは無関係だが、国公立大学出身者の方が幸福度が高いという結果はあるようです)

まあ、私のように私学で禄を食む身としては、この問題は必ずしも解決されなくてもよいのでは、とも思うわけですが…

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