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[本・レビュー] 日本のスゴイ科学者
日本のスゴイ科学者 29人が教える発見のコツ 朝日学生新聞社
日本のスゴイ科学者達はどのような子ども時代をすごし、どのような動機で研究職を選んだのか。
世紀の大発見につながった、各先生方のコツとは!?
分かりやすいイラストで、最先端の技術を知ることができる、子どもはもちろん大人にもおススメな一冊
この本ではスゴイ発見や発明をした29人の日本人科学者の方々が紹介されています。
ノーベル賞を受賞された山中伸弥先生、本庶佑先生も紹介されています。
本書では、各先生方の御発見やご発明が、楽しいイラストつきで紹介されていて、最先端かつ本来は非常に難しい話題も、どんどん読み進めることができます。
例えば、本庶先生が開発されたオプジーボ
ウイルスや細菌などの異物を攻撃するキラーT細胞。
このキラーT細胞はPD-1というブレーキボタンが存在し、自分の細胞はこのブレーキボタンを押せるの(PD-L1という腕を持つ)に対して、異物はこのボタンをおせません(腕であるPD-L1がない)。
ところが、がん細胞は異物なのにPD-L1(腕)を持っています。オプジーボはこのブレーキボタンを押せないようにカバーしてしまうのがイラストでわかりやすく解説されています。
[研究の豆知識]として私達を形作る細胞を、一つの街にみたてたイラストも秀逸です。
どの先生方の発見もすばらしいですが、個人的にもっとも印象に残ったのは
岡崎フラグメントを発見された名古屋大学教授 岡崎令司先生、名古屋大学名誉教授 岡崎恒子先生 ご夫妻です。
DNAは2本の糸がペアになっていますが、DNAがコピーされる場合には、ジッパーを開くように2本の糸がさけます。2本の糸は向きがありそれぞれ逆向きです。一方はその方向のままDNAがコピーできますが、もう一方は方向が反対なので、本来はコピーができないはずなのです。
これに対して、後に「岡崎フラングメント」と呼ばれる小さなDNAのかけらが少しずつあつまって、DNAがコピーされることを発見されたのがご夫妻です。
つまり左から右に一気にDNAをコピーできないので、少し奥側(右)から手前(左)に向けて短いかけらをつくり、それを右から左につないでいくことでコピーが進むわけです。
当初この発見を疑う声が多かったようですが、後にDNAのかけらどうしをつなぐしくみが発見され、今では誰もが知る事実となっています。
中学生時代に広島で原爆の「黒い雨」をあびた令司先生は白血病にたおれ1975年に44歳の若さで死去されています。幼いお二人の子を育てながら、研究をひきつがれたのが恒子先生だったようです。
テキストで「岡崎フラグメント」をみかけることは何度もありましたが、こんなドラマがあるなど思いもしませんでした。
他にも、2016年に「ニホニウム」と呼ばれる日本人初の元素発見をされた森田浩介先生、世界一正確な時計となるかもしれない光格子時計を研究されている香取 秀俊先生、CO2を利用してエネルギーを生み出す人工光合成の研究をされている大阪市立大学人工光合成センターなど、話題はつきません。
本書では各先生方の幼少期、研究者になった御動機などもインタビューされています。
どの先生方も好奇心旺盛で、小さなころから「なぜ」「どうして」と物事を考えることがお好きな方ばかりな印象です。
酸化チタンは紫外線に当たると、表面についたよごれや微生物を分解したり、水とよくくっつく性質をもつため、家の壁紙、車のコーティング剤など様々な用途で使用されているようです。この酸化チタンを発見された藤嶋昭先生は、酸化チタンに光を当てた際に、あわが出たことから、世紀の大発見につながったそうです。
私が同じ状況にでくわしても、何も気づかずに終わってしまいそうです。ほんの些細な出来事を「あっ!」と思い、大発見へつなげられるのはさすがです。
あと、何人かの先生方は小さい頃によく遊ぶことを推奨されていました。
「遊ぶ」とは一体なんでしょう。外をにでてよく体を動かすことでしょうか。テレビゲームはダメなのでしょうか。
私は本書を読んでいると「遊ぶ」というのは、「目的以上にその行為そのものにうちこめる」ことを言うのではないかと考えるようになりました。
研究が全然辛くなさそうな方もいれば、それなりの苦痛を伴っているととれるインタビューをされている先生もいらっしゃいます。
しかしながら、「誰かに強制されたから」「やりたくなくても仕方なく」といった言葉は一つもみかけませんでした。
研究の素晴らしいところは、一つの発見で数多くの人類の恩恵となるところです。一方、結果がでない、あるいはアプローチが間違っていれば、人生が台無しになってしまう可能性もあります。
人類未踏の地に到達できる方々は、己の信念を貫いて、時には周囲の誰にも認められずに研究を続けられています。
その時に必要なのは「自分ならやれる」という自己肯定感と、「周りの声に流されず、研究にうちこめる情熱と好奇心」なのではないでしょうか。
子ども達に押し付ける前に、自分もより一層の情熱と好奇心をもって、物事にうちこんでいこうと思わされる一冊でした。