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読解力を養おう!(書評:『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』)

 初めて読んだのは2年程前だったでしょうか。以前に記載したものを加筆修正してご紹介させていただきます。

 売れてるし、話題になったから、今さらながら一応よんどこうかな。

 そんな軽い気持ちで購入しましたが、是非一読すべき本だと思いました。
教育者や親世代のみならず、今を生きる全ての人に向けられた本です。名著だと思います。

 私は本著を、『AI技術によってもたらされる社会変化への警鐘』と捉えました。

 本書の要旨をざっというと

 「少なくとも私たちの子供の代まではAIなんてできやしない。シンギュラリティも来ない!。でもAI技術で全体の約50%は仕事を失っちゃうから、AIにできない読解力や技術、知識を養わないと大変なことになるわよ!。でもそのために必要な読解力が低下しているのよね。とほほ...(新井さんはこんな低俗な言葉使いはされておりませんので、あしからず)」

といったところでしょうか。

 まず重要なのは「AIはまだどこにも存在していない」という点です。AI(artificial intelligence)の一般的な和訳は人工知能で、知能を持ったコンピューターという意味で使われます。

 人工知能というからには、人間の一般的な知能と、少なくともほぼ同等レベルの知能でなければなりません。
 AIがコンピュータ上で実現されるソフトウェアである限り、人間の知的活動のすべてが数式で表現できなければ、AIが人間に取って代わることはないようです。コンピューターの速さや、アルゴリズムの改善の問題ではなく、数学そのものの限界といいます。そのため、AIは神にも征服者にもなれず、シンギュラリティも来ないとされています。

 ところで、非常に大事な点ですが、現時点で「AIは存在しない」にも関わらず、巷には「AI」の文字があふれています。これは「AI」と「AI技術」が混同して使われているからのようです。AI技術というのはAIを実現するために開発されている様々な技術を指します。

 日常にあふれているのは「AI」ではなく「AI技術」であり、スマートフォンやルンバがその好例です。AI技術をAIと呼ぶことで、実際には存在しないAIがすでに存在している、もしくは近い将来に登場するという誤解が生じているのです。

 AIに関連して、時折耳にするのがシンギュラリティ(singularity)というワードです。耳なじみはあるものの、意味不明でしたが、なんとなくかっこいい感じがします。

 それって、シンギュラリティだろ!?

 使い方があってるかどうか分からなくても、なんとなく言ってみたくなります。

 私がこの言葉を認識したのはニュースや本ではなく、MAN WITH A MISSIONの歌詞からでした。
 AI用語ではtechnological singularityという言葉が使われ、「技術的特異点」と訳されます。AIが人間の力を全く借りずに、自分より能力の高いAIをつくり出すことができるようになった地点のことを言うようです。

人間の手を離れ、AI自身が増殖、進化をとげられるようになった地点といったところでしょうか。ここまで来てしまうと、個人的にはターミネーターの世界まっしぐらなイメージを持ってしまいます。

 著者は2011年に「ロボットは東大に入れるか」と名付けた人工知能プロジェクトを立ち上げられています。プロジェクトは「東ロボくん」の愛称でメディアに大きく取り上げられ、その認知度を上げました。近い将来にAIが東大に合格できると思って始められたものではなく、AIにはどこまでのことができるようになっていて、どうしてもできないことは何かを解明するためとされています。結論として、新井さんは現在の技術ではAI技術は東大には受からないと考えているようです。
 東ロボくんは、数学的論理・統計・確率といった技術を駆使し、5教科8科目の偏差値は57.1。全国に756ある大学のうち70%にあたる535の大学で、合格可能性80%以上の判定を得ているといいます。その中にはMARCHや関関同立のような有名大学の名もあったようです。

 驚くべき成績ですが、新井さんはこう記載されています。
 "過去問やウィキペディアといった活用可能な知的資源、そして最先端の数式処理などをフルで使っての実力は、偏差値50台の後半という認識が正しいでしょう。現状のAIの能力には超えられない様々な壁があり、今の技術の延長ではそれを乗り越えられない"

 つまり、コンピューターが数学をもとにプログラムされている以上、人間がもつ論理的思考や、柔軟な発想、言語理解が不可能であるため、それ以上の成績アップは望めないというのです。

 計算能力の高さと、創造力や問題解決能力の高さはイコールではないということです。AI技術が我々を凌ぐと考えるのは、優れた数学者はあらゆる知性の面で他の人間を凌駕し、彼らが世界を支配するであろうと考えるのに近いのかもしれません。

 だからといって、AI技術 襲るるに足らず!とはなりません。
オックスフォード大学の研究チームは、702種に分類したアメリカの職業の約半数が消滅し、全雇用者の47%が職を失う恐れがあると予測しているといいます。

 新井さんは、AIに読解力をつけさせるための研究で積み上げ、エラーを分析してきた蓄積を用いて、人間の基礎的読解力を判定するリーディングスキルテスト(RST)なるものを開発されました。

全国2万5千人を対象に実施した読解力調査(RST)でわかったこと
・中学卒業の段階で、約3割が(内容理解を伴わない)表層的な読解もできない
・学力中位の高校でも、半数以上が内容理解を要する読解はできない
・進学率100%の進学校でも、内容理解を要する読解問題の正答率は50%強程度
・読解能力値と進学できる高校の偏差値との相関は極めて高い
・読解能力値は中学生の間は平均的には向上する
・読解能力値は高校では向上していない
・読解能力値と家庭の経済状況には負の相関がある
・通塾の有無と読解能力値は無関係
・読書の好き嫌い、科目の得意不得意、1日のスマートフォンの利用時間や学習時間などの自己申告結果と基礎的読解力には相関はない

 新井さんによると、高校生の半数以上が、教科書の記述の意味が理解できないとされています。

 近年、教育において「アクティブ・ラーニング」の重要性がしきりに強調されています。

 しかし新井さんは警告を鳴らします。
 教科書に書いてあることが理解できない学生が、どのようにすれば自ら調べることができるのだろうかと。
 自分の考えを論理的に説明したり、相手の意見を正確に理解したり、推論したりできない学生が、どうすれば友人と議論することができるのだろうかと。

 "このような絵にかいた餅が学校現場に導入された責任は、文部科学省よりもその方針を決定した中央教育審議会、そしてその構成員である有識者にある"とおっしゃられています。

 AI技術時代を生きにくにはまず読解力をみがくべきです!!!
世の中は情報で溢れているため、読解能力と意欲さえあれば、いつでもどんなことでもたいてい自分で勉強できると新井さんもおっしゃられています。

おさらいです。
東ロボくんが示すように、AIはすでにMARCHの合格圏内の実力を身に付けています。その序列は大学進学希望者の上位20%に達し、大学に進学しない人も含めると、序列はもっと上です。つまり、AIにより職を失う人のうち、AIにできないタイプの知的労働に従事する能力を備えている人は、全体の20%に満たない可能性があります。
 一方、日本人の教科書読解力は著しく低下しています。読解力こそAIが最も苦手とする分野ですが、この読解力を養えていません。しかも、日本の教育が育てているものの多くは、今もって、AIによって代替される能力しかカバーできていません

 AI技術を使うばかりで、研究者でもない私たちにとって、最も重要なのは『まずは読解力を養う』ことでしょう。

 そして、それこそが、アクティブラーニングや外国語の勉強よりも前に、教育が重視すべき点なのではないでしょうか。

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