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[本・レビュー] 『僕が僕をやめる日』

『僕が僕をやめる日』 松村涼哉 著


 世の中に忘れ去られ、助けも得られぬ社会的弱者の子ども達。
 ”生まれた時は美しかった魂も、やがて汚れて、消えて、忘れられていく”
 子どもはやがて大人となり、延々と続く負の連鎖。
 貧困から道をはずれた者が新たな被害者を生み、その被害者もまた道を踏み外していく。
 不幸とは感染するものなのか。
 救いようのない二人が出会い、人生が交差する中、お互いがお互いを思いやることでラストにはさわやかさや希望を感じさせられる素晴らしい作品。
 見て見ぬふりを止めることで『私達は、彼らと同じ魂をもつ子ども達を救うことができる』
 
 
 家族が崩壊し、経済的にも困窮する19歳の立井潤貴。
 社会的な支援もろくに受けられず、かといって人の道を外れたくない彼は自殺を決意する。 
 そんな彼の前に現れた高木健介は、自分になりかわって生活することを提案する。
 奇妙だけど、幸せな二年間。その後突然、高木健介は姿を消し、立井は殺害の嫌疑をかけられる。
 
 某サイトのレビュアー大賞に応募してみるべく、課題作品の中で、最も私の嗜好にあいそうと選んだ一冊。
 この企画がなければ、手に取ることはなかったと思いますが、読んでいて非常に楽しめました。
 
 内容は決して明るいものではありませんが、私欲で行動しているわけではない高木・救いようのない状況の中でも決して人の道は外れまいとする立井に『魂の純潔』さを感じます。
 
 小説を通して『幸せを掴みたい』『自分達を認識してほしい』という思いがひしひしと伝わり、胸があつくなります。
 
 今年は新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、失業率悪化や貧困の拡大がさらに深刻化しています。
 国や政府はあてになりません。見て見ぬふりをやめて、お互いに助けあう・関わり合うことで、救える魂が数多く存在すると気づかせてくれる名著だと思います。
 

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