幻想モラトリアム。
電車に乗っていると、
…このままずっと止まらなかったらいいのに…
と、思ってしまう。
家と職場の往復。
ほんの数十分の、人間モラトリアム。
この時間だけは、
組織の中の一人じゃない。
……一人の「私」に、戻れるんだ。
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最近読み始めた、ファンタジー小説を開く。
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主人公は、幻の国の王子、レオ。
身体は小さいけれど、
頭が良くて、誠実で、みんなに優しい王子さま。
村の人々みんなから、愛されている。
…だけど、レオには秘密があった。
実は、レオは王族の子どもではなかったのだ。
ある日、夏の夜、舞踏会。
レオは、
召使いのスーと、見知らぬ老婆の会話を聞き、
自分が、本物の王子ではないことを知る。
そして、召使いのスーは、
本物の王子の母親だということも知ってしまう。
……月日が流れ、秋、満月の夜。
レオは、
自分とは何者か、
なぜ自分は王族にいるのかを知るために、
城を抜け出して森の中へ、
本物の王子を探す旅に出る…。
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____次は、〇〇駅、〇〇駅。お出口は右側です。
……夢中になって読んでいた。
気が付いたら、
あっという間に、家の最寄り駅だった。
……私の猶予、今日は終わり。
電車を降りて、家まで歩く。
どこかの家のカレーの匂いと、
赤ちゃんの泣き声と、
綺麗な夕焼け雲があった。