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とっておきの京都手帖16


< 令和七年乙巳 謹賀新年 >


巳年は蛇を象徴する十二支であり、新しい挑戦や変化、成長、変革を意味する年とされている。

年が明けて、自分の何が変わる訳でもないのだが、心を新たにする機会と捉えれば干支さえも自分に味方するように見えてくる。心持ちとは不思議なものだ。





蛇は脱皮を繰り返すことから、再生や成長、復活の象徴とされている。
“お金が成長するように”と財布に脱皮した蛇の皮を入れたり、蛇革の財布が使われたりと、昔から蛇は金運に恵まれるよう縁起物として馴染み深い存在でもある。



京都にも蛇を祀った神社仏閣がたくさんある。
七福神の一人、弁財天の使者ともされる蛇。白蛇は化身ともされ、金運や商売繁盛を願い、また脱皮することから健康長寿や若返り等の御利益が期待されている。上賀茂神社、神泉苑 、御所の弁天さん(京都御苑内・白雲しらくも神社)、池の弁天さん(京都御苑内・厳島神社)等々だ。
干支が祀られている神社仏閣として、あのお稲荷さんで有名な伏見稲荷大社や下鴨神社、通称清水きよみず鎮宅妙見ちんたくみょうけんさん(京都東山の清水寺からほど近いことから)の洛陽十二支妙見みょうけん 巳の寺である日體寺にったいじ等がある。

そして、京都通の方は思い浮かべられたかもしれない。
京都を守る四神の玄武も、亀と蛇だ。玄武神社がある。

京都駅ビルから望む北山
平安京を守る四神の玄武が北面の守護神


宇治市には、紫陽花で有名な三室戸寺もまた、体が蛇の姿をした五穀豊穣ごこくほうじょうの神・宇賀神うがじんを祀っている。

珍しいものとして大豊おおとよ神社には、狛犬ならぬ狛巳こまへびがいる。神の使いとして蛇も大忙しだ。


また、弁天さんは技芸上達の女神でもあるので、出町妙音堂(出町青龍妙音弁財天)でも祀られている。蛇と芸能でいうならば、妙満寺は『娘道成寺』で知られる「安珍・清姫の鐘」を所蔵するお寺だ。



紹介したのは蛇が祀られている神社仏閣のほんの一部だが、その歴史背景と、いつの時代も干支に希望を見出す先人達の知恵に感動し、笑みがこぼれる。





そして、蛇が用いられているのは日本や仏教の世界だけではない。
欧米においても、世界医師会、WHO(世界保健機関)、救急車、アメリカ医師会、薬局で蛇のマークが用いられている。そして同じく日本医師会、地域によっては救急車にも描かれている。医療関係のロゴマークになっており、“Star of the Life(生命の星)“と呼ばれる。

これは、ギリシャ神話に登場する医学の神、アスクレピオスの持つ杖に巻き付く1匹の蛇がシンボルとされている。
アスクレピオスは名医で、死者をも生き返らせることが出来たとされている。元祖ドクターXといったところだろうか。
蛇の意味については諸説あるようだが、蛇の習性から考えると、蛇は体に傷が付いても、脱皮して傷がない体に戻ることができることにも由来するらしい。脱皮することによって、“再生と治癒“ができると捉えられている。なお、脱皮は蛇の種類や年齢、季節によっても異なるようだが、日本の蛇なら若い頃は1〜2ヶ月に1回、そして冬眠を外した春夏秋に1回程度、高齢になるともっと減っていくらしい。


ちなみに日本において医神とされるのは、出雲神話に登場する大国主命おおくにぬしのみことで、「因幡いなば白兎しろうさぎ」、『古事記』における「稻羽之素菟(いなばのしろうさぎ)」で、うさぎを助けた神話を聞いたことがある方も多いだろう。大国主命おおくにぬしのみことの若い頃の名前が「大穴牟遅神(おおなむちのかみ、または、おおあなむじのかみ)」であり医神として祀られている。大国主命おおくにぬしのみことは『古事記』と、『日本書紀』に登場する薬神の少彦名命(すくなひこなのみこと)とともに医療神とされているそうだ。日本においてこの医療の神と蛇は関係していない。




徳洲会グループ公式サイトの「直言」を読ませて頂き、小林修三氏の言葉にハッとした。

「初めての病院(ホスピタル)は、紀元529年イタリアのモンテカッシーニ修道院に設けられた養護施設(ホスピス)とされています。病気だけでなく、困っている人々を助け、心の安らぎも与えるところでした」

徳洲会グループ公式サイト「直言」小林修三氏の言葉


およそ1500年前、心身の癒やしに応えたホスピス。
今なお世界において紛争が絶えず、国の情勢によっては満足な医療も受けられない人々も多い。
日本国内においても、低迷する経済が長年続いていることもあり、同じ状況もあるだろう。「心の安らぎ」はいつの時代も満たされぬ課題とも言える。



そんな中で興味深い記事に出会った。
昨年の京都新聞(11月9日付朝刊)高橋道長氏の記事で、昨日1月3日のLINE NEWS、Yahoo!ニュースでも届いた、京都市ユースサービス協会の「おりおりのいえ」を取り上げたものだ。
これは、帰れる実家がない、友達が帰省でいなくなるのが嫌、家族との不和や介護疲れ、不慣れな一人暮らし、寂しさを感じるなどの多様な悩みを抱えた若者向けの短期宿泊施設だ。未成年者の宿泊には保護者の同意を求めるが、中学生以上を受け入れ、若者自身が利用を決められるという。
協会の担当者、竹田明子さんの温かな言葉が胸に響く。
「孤立しながらも頑張っている若者が身近にいっぱいいることを知ってほしい」



京都市ユースサービス協会の記事は、シンポジウム開催や、昨年4月からの京都市立芸術大学でのキッチンカーを使った移動型ユースセンター「ユーススタンド」の登場が紹介されているものとして、京都新聞や他紙でも目にしていた。
クラウドファンディングや寄付を募り、地域と一体になって、若い世代が安心して生きていける未来を創る。かつて自分も若者だった頃の不安や悩みを思い返せば、時代は違えど寄り添えることもあるかもしれない。一皮も二皮もむけ、大人になってきたのだから。




蛇は「再生」「吉兆」を表し、ヨーロッパでは「永遠」を意味するとも言われている。
先人達の知恵に助けられながら、自分自身の今年の抱負に問いかけたい。




<参考> 京都市公式サイト(上京区)
     日本医師会ホームページ
     徳洲会グループ公式サイト「直言」
              バックナンバー
     奈良県公式サイト
          「古事記ゆかり地マップ」
     京都新聞
     LINE NEWS
     Yahoo!ニュース



<(c) 2024    文 白石方一 編集・撮影 北山さと 無断転載禁止>




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