書評:マシャード・デ・アシス『ドン・カズムーロ』
「猜疑」のみを起因に転落していく人生の恐ろしさ
今回ご紹介するのは、ブラジル文学よりマシャード・デ・アシス『ドン・カズムーロ』という作品。
日本では、「ブラジルの漱石」とまで言われるほど、実はその技量に対する評価が高いそうである。
本作は、主人公サンチアーゴと幼馴染で恋仲であるカピトゥーとの顛末を描いた作品である。物語の後半近くまであまり大きな展開もないのだが、最後に大きな「謎」が待っている。
サンチアーゴが妻の姦通を疑い、猜疑的・自閉的になり不幸な一生を送ることになるのだが、妻の姦通が真実なのかどうかについては、決定的な証拠が示されることなく、サンチアーゴにも、そして読み手にもわからない形となっているのだ。
つまり、サンチアーゴは自らの猜疑のみを唯一の原因として転落していくことになる。
「猜疑」
この感情はスパイラル的に人を蝕む、恐ろしい性質のものだ。
シェイクスピア『オセロー』も一作を通じて「猜疑」に起因する悲劇を描いた作品であり、その点において『オセロー』と本作はテーマが非常に似通っていいる。
では、人に対し天然で何でも信用・信頼することが幸せなのか。
事はそれほど単純ではないだろう。ここに人に対する感情のの持ち方の難しさがあると言えよう。
本作は見事にその難しさを描いてみせてくれた。
人間の心理の抗い難いカルマを描いたという意味で、「ブラジルの漱石」というキャッチフレーズも誇張ではないと言えるのではないかと思わずにはいられない作品だ。
読了難易度:★★☆☆☆
どんでん返し度:★★★☆☆
猜疑心の恐ろしさ度:★★★★☆
トータルオススメ度:★★★★☆
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