米倉涼子さんに救われた話

私は腰痛持ちだ。
動けない、生活に支障を来すほど重篤ではない。ヘルニアでもない。疲労が腰に来るというのだろうか、十代の頃部活で痛めて以来、兎に角時々私の腰は痛たむ。痛むのは必ず腰椎の下の辺りだ。

ある時、部屋で躓いた。その際無理に腰を捻った。初めてぎっくり腰になった。それまでの腰痛の比ではない痛さだった。
それ以来癖になったようで、度々繰り返した。頻度は増して数か月おきに襲い来るようになった。何でもないようなことで発生するようになった。痛むのはやはり腰椎の下の辺りだ。

amazonで腰椎コルセットを買った。安いながらも形状が保持されるプレートが入っている。そのお陰でしっかりと腰全体がホールドされる。少し楽になった。
しかし魔女はしつこく付きまとい杖で私の腰を打つその手を止めない。定期的に地獄の責め苦を受け続けた。

ある日、テレビのニュースを見ていた。アナウンサーは、俳優の米倉涼子さんが、出演予定であったブロードウエーの舞台を降板したことを告げていた。腰痛が原因だという。

――せんちょうかんせつえん。

アナウンサーはそう呟いた。聞き馴染みないその単語は「仙腸関節炎」と書くことが分かった。
腰椎の下には仙骨という骨がある。その左右に腸骨――所謂骨盤が繋がっている。その継ぎ目が仙腸関節である。関節とはいえその可動域は極めて狭いものらしい。
その関節が炎症し痛むのだ。ぎっくり腰の原因のひとつともいわれている。

私の腰の痛むのはいつも腰椎の下の辺りだ。
仙腸関節炎、これが我が魔女の正体なのではないか。腰椎をいくら固定しても効果は上がらないのだろう。固定すべきは骨盤だ。そう考え腰椎コルセットを骨盤ベルトに変更した。一年経って二年目に突入した。
魔女はまだ一撃を加えて来ない。

果たして、私のぎっくり腰は「仙腸関節炎」だったのだろうか。
それはわからない。わからないけど、骨盤ベルトを導入したのは米倉涼子さんのニュースが切っ掛けだ。そして以来ぎっくり知らずだ。
だから私は米倉涼子さんに救われたものだと勝手に思っている。

米倉涼子さん。ありがとう、そしてお大事に。

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