【ユング心理学】自分の中の生きられなかった「影」の部分
今回はユング心理学のシャドー(影)という概念を紹介します。
人は自分では受け入れられずに意識すらしていない「影」の部分を持っています。
その影を受け入れることで、人生が豊かにまた人間関係が良くなる、そういった話です。
ユング心理学のシャドーとは。
物に光が当たると、明るく浮かび上がる一方で暗い影も生まれます。
人の心も同様に明るく光の当たる面と暗い影の面を併せ持っています。
光の当たる面は、自分が「このようにありたい」「このように生きたい」と望む内容です。
一方で影は、自分が嫌う自分の反面(半面)です。
自然界の物は光が当たる面と影の面があるからこそ、美しく深みと奥行きを持つのです。
人も同じで光だけではなく影も併せ持つからこそ、豊かな人間になりより良く生きられるのです。
ところがたいてい影の部分は、当人としては好ましくない内容です。
自分では受け入れたくない部分です。
そこで否定され容認されずに捨てられた自分の面をユング心理学ではシャドーと呼びます。
「生きられなかった反面(半面)」とも表現されます。
捨てられたといっても実際にはシャドーは残ったまま存在しています。
わかりやすいように意識と無意識で簡略化して説明します。
シャドーは意識に上がってこないように無意識の中に抑圧されます。
当人はシャドーの存在にも自分で抑圧していることにも気がついていません。
シャドーは抑圧したままだと、歪んだ不健全な形で、様々な場面で私たちに影響を与えます。
たとえば他人に自分のシャドーが投影されるということがあります。
投影というのは自分の中の心的内容を自分のものとして認識せずに他人に映し出すことです。
「あの人のあの部分がどうしても嫌いだ」
と思う場合でも、実は自分にも似たようなところがあり、それを認識せずに相手に投影していることがあります。
このことが、人間関係がうまくいかない要因になっている場合もあるのです。
ここでシャドーの投影の極端な例ですが、「黒い羊の仮説」を紹介します。
アメリカの精神医学者、ジョンソンとスズレクが提唱した概念です。
教育者、経営者、医者、国家公務員、宗教家など、社会のリーダーや聖職と言えるような人々の、一見すると非の打ち所のない家庭から、犯罪、非行、薬物中毒、売春などにかかわる問題を呈する子どもが生まれてくる現象がしばしば起こるそうです。
親たちは、清く、正しく、理性的で社会に迎え入れられるような面だけを生きようとした結果、暗く、情動的、衝動的、攻撃的な「影」の面を抑圧しているのです。
親たちは、表面的には子どもに社会的に好ましい行動をとるように教育しています。
しかし、無意識で子どもが衝動的、攻撃的、反社会的な行動をとることを暗に期待し容認しています。
親たちが生きられなかった反面(半面)、つまりシャドーを無意識に子どもに代理として生きさせているのだそうです。
子どもが2人いたとして、長男には良い面を投影して育て、次男には悪い面を投影して育てる。
この場合、長男が善良な「白い羊」であり、次男が影を背負った「黒い羊」となります。
暗い話になりましたが、先にも述べたように抑圧し生きられなかったシャドーを受け入れて生きることで、深みと奥行きのある豊かな人生を送ることができます。
シャドーを受け入れる方法として、ユング心理学では「投影の引き戻し」があります。
自分の中の心的内容を他人に投影してその人を否定している場合。
実はその人の中の性質ではなく、自分の中にある性質なのだと気づくことです。
自分の中にもあるものなのだと、シャドーに気づいて受け入れられると、自分にも他人にも寛容になれます。
ただし、自分一人だけで投影の引き戻しをしようと思ってもなかなか難しいのが実際です。
他人よりも自分のことのほうが理解しにくいものです。
そこでカウンセリングを受ける中でカウンセラーと一緒に自分の心を理解していくのも一つの手です。
今回は、ユング心理学のシャドー(影)を紹介しました。
生きられなかった反面(半面)に気づき、自分の中で統合して深みと奥行きのある人間として豊かに生きましょうという話でした。
最後までお読みいただきありがとうございました。
【参考文献】
『犯罪心理学入門』(福島章 中央公論新社)
【お問い合わせ・カウンセリング】
■小林へのお問い合わせはこちら
小林へのお問い合わせやお仕事依頼など。
■カウンセリングのお申し込みはこちら
カウンセリングについてのお問い合わせやお申し込み。
小林いさむ|公認心理師
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?