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少年の心を忘れずにいたい大人たちへ◇『ロス、きみを送る旅』

 性別にかかわらず、未成年だったころの感覚をずっと大切にしたいと思っている、という意味でいえば、わたし自身が「少年の心を忘れずにいたい大人」といえます。
 そんなわたしと似た思いを抱いている人たちへ、ご紹介したい本に出合いました。

 キース・グレイ『ロス、きみを送る旅』

 親友のロスが事故で死に、自殺の疑いもかかるなか、やり場のない気持ちを抱えたブレイクとケニーとシムは遺灰を持ち出して旅に出ます。ロスが生前、行きたいと話していた「ロス」という名の町を訪ねて。イングランドの地元からスコットランドのその地まで、遠くても列車を乗り継いで行けばたどり着くのはそう難しくないはずでした。
 ところが、3人とロスの遺灰を含めた「4人」の旅は、想定外のトラブルだらけ。切符をなくし、偶然出会った男の車に乗せてもらって回り道、立ち寄った町ではなりゆきでバンジージャンプを飛ぶはめに――。

 そんなドタバタ道中を楽しんで読み進めていくと、目的地まであと少しとなったあたりで、3人それぞれが言えずにいた事実があらわになり、痛みと苦みをともなう真実に向き合っていくことになるのです。

 読んでいて、スティーブン・キング『スタンド・バイ・ミー』を思い出しました。やはり単純なめでたしめでたしではない、ほろ苦さのあるラストです。けれども人は、生きているかぎり、痛みを受け止め光を求めて前に進んでいくのでしょう。

『スタンド・バイ・ミー』の映画版で、主人公ゴーディが早朝に、ひとりで鹿に遭遇するシーンがわたしは大好き。静かで美しいそのシーンが印象に残っているという人は少なくないはずです。ゴーディにとっても特別な時間だったのか、その鹿のことは仲間には言わず、自分だけの胸にとどめておくことにしました。

『ロス、きみを送る旅』にも似たシーンが出てきます。主人公ブレイクは朝、ひとりだけ先に目ざめて野犬とひとときをともにします。そして、そのことは他のふたりには話さないでおくのです。

 だから、なんだ? とも思いますが、そういう「言葉では説明しにくいけれどもたしかにそこにある純粋なもの」あるいは「言葉でダイレクトに説明すると野暮になり、そのもの本来の美しさを損ねてしまうようなもの」を表現するのに、物語という形式はつくづく優れていると思いました。

『ロス、きみを送る旅』の著者キース・グレイが物語を書き始めたのは、ロバート・ウェストールの作品に夢中になったことがきっかけだったそうです。

 そのつながりで、最近読んだウェストールの短編集をここであわせてご紹介しておきます。

 ロバート・ウェストール『ブラッカムの爆撃機』

 表題作を含む3編が収録されているほか、宮崎駿監督の描き下ろしカラー漫画「ウェストール幻想 タインマスへの旅」が掲載されているのも本書の見どころ。少年時代の光と影を描こうとする大人たちの愛と夢を感じます。

 こうした本に触れていると、少年の心を忘れずにいたい大人は案外たくさんいるのではないかと思えてきて、勇気をもらえます。


◇見出しの写真は、みんなのフォトギャラリーから
scoop_kawamuraさんの作品を使わせていただきました。
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