【書評】守れる命を守りたい『いじめの聖域 キリスト教学校の闇に挑んだ両親の全記録』
甲子園の常連としても有名な名門高校。そこの2年生だった男子生徒が自殺した。遺族がただ再発防止策を求めるだけなのに対して、すったもんだする学校と県担当課を記録したノンフィクション。偽装提案にはじまり、第三者委の報告書受け取り拒否、さらには2017年の本件から2020年にかけて続く生徒の死の疑惑。いじめを認めない学校はどこに向かうのか。本書は解像度高く事の顛末をうかがい知ることができる。
まず緊急的な課題は、遺族が望むように再発防止策である。学校は遺族や生徒の家庭環境、メディアに焦点を向ける以前に、成果が求められるレベルで再発防止策を講じなければならないだろう。学校としていじめを認められないことと、いじめや自殺についてより強い対策をすること、さらに再発防止に本書の勇斗くんの事例を活かすことなどは矛盾しないのではないか。情操教育の実践が豊かな宗教系の学校であるならなおのこと、この点の可能性を模索すべきであろう。
一方で学校がさらされているジレンマがありそうに思えた。現行のいじめ防止対策推進法によると、被害者がいじめられたと感じればいじめとなるという。まずはいじめを広く認定するという方針なのであろう。これによって学校は、メディアからの子どもの権利防衛や、いじめ認定による損害賠償請求の可能性などへの対策など、増加する問題もありそうだ。しかし当然忘れてはならないことは、生徒の命や安全な学校生活が第一だということである。
ただ再発防止を求めた結果、幸か不幸か法制度の穴を見つけることとなってしまったのだが、提訴に踏みきった遺族の優しさと強さを称賛したい。これは日本の学校に通う全ての子どもたちが脅かされる問題なのだから。また本書を発刊し世間に訴えかけるジャーナリズムにも敬服する。
日本社会の問題として、多くの人の手に取って頂きたい本である。
『いじめの聖域 キリスト教学校の闇に挑んだ両親の全記録』
作者:石川陽一
発売日:2022年11月10日
メディア:文藝春秋
今回は教育関係、いじめ問題の本を取り上げました。タイトルの通り宗教系学校が舞台ですが、その属性による問題はないように思います。