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甘味。


まだ祖父母が健在で菓子屋を営んでいた頃。
冬になると祖父は店内に火鉢を準備した。

川に蓋をする形で作られた商業施設は、
「水上店舗」
と呼ばれ、文字通りコンクリートの床下には
川が流れているので底冷えする。

熊本の山鹿市という灯籠祭りと温泉で有名な
土地で生まれた祖父は、とても寒がりな人
だった。

店内に置かれた火鉢で暖を取りながら、
そろばんを弾く祖父。
火鉢のパチパチ…。
算盤のパチパチ…。
両方の音が小気味よく響く様を、
子供心に楽しく眺めていた。

客足が静かになると。
祖父はおもむろに戸棚から餅を取り出して、
火鉢で炙り出す。

ぱちぱちと音を立てて膨らんだ餅に、
塩や砂糖醤油をつけて頬張る。

餅より火鉢に興味津々な私を祖父は
「火傷するから触ってはいけない。」
と言って制する。

そして、追加の餅を取り出して
火鉢で焼いて

「美味いぞ。食べなさい。」

と言って私の口に砂糖醤油のついた
焼き餅を差し出す。

時代の流れで小売業が立ち行かなくなり、
祖父母が営んでいた店は随分前に閉店した。

あの火鉢で焼いた餅、
また、食べてみたいなあ。



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