映画「さがす」考察〜父をさがす娘、乳をさがす男子中学生〜
「さがす」観ました。備忘録を書きます。
以下、ネタバレを含みますのでご注意ください。
予告編に示されている「失踪した父に連続殺人犯がなりすましている物語」としていったん鑑賞するのがオススメです。
「素振り」に始まり「素振り」に終わるこの映画。
少なくとも著者はホームランを打たれ、もう1度観たくなるアタリ映画となりました。
冒頭の娘の疾走はこれから始まる父の失踪劇のプロローグでした。夜道に映える白ソックスというモチーフが翌朝に雑然と床に落ちている様子が劇中に不穏な空気を漂わせ始めます。
彼女の純粋さ、西成という街が育てたであろうアナーキーさ、そして愛と真実をさがし続ける姿に引き込まれます。
読まないと言っていたはずの少女漫画を手にしていた彼女は、物語を通して大人に近づいたのでしょうか。ただ中学生の彼女はそもそも劇中のどの大人よりもひたむきに善悪の判断に立ち向かっていた気がします。
彼女と軽快な会話のラリーを交わすのは父です。
娘とのどこか愛のある悪口やボケとツッコミのやりとりが物語にリズムを生み出します。
しかし過去に最愛の者の命を他者に委ねてしまった彼の中の虚無感は、いつか踏んだ靴底のガムのようにこびりついたままでした。
彼は車椅子に乗る若い女性に妻と娘の姿を重ね、涙します。
そして心から死を求める彼女から今度こそ目を離しませんでした。そのとき最愛の妻をも、ついに自身の中で殺したのかもしれません。
有料コンテンツをオカズに自慰をする心優しき爺さまが皮肉にもオカズにされてしまった惨劇は、あまりにも理不尽で目を背けたくなるものでした。
要らない人間がいるのではなくそもそも人間が要らない。
そう考える殺人鬼が息絶える直前の姿は、いつか彼が埋葬した猫の最期の生命の鼓動に似ていました。
頭から血を、目から涙を流しながら何を見たのでしょうか。手にかけた人間たちの悲痛か、自身の生への執着か、愛か、今となっては知る由もありません。
ラストシーン、親子を分かつ卓球台のネットはあまりにも高く見えます。
父は元いた場所に戻ってくることができませんでした。また今度と約束していた親子での卓球を、心のラリーを、もう少し早く実現できていれば結末は変わっていたのでしょうか。
ボケた相方の目を覚ますのがツッコミの役目だとすれば、サイレンの音とその先の未来は愛と真実をさがし続けた娘による父へのツッコミだったのかもしれません。
遊びはここまでです。
さて、バラエティに引っ張りだこのコメディおじさん佐藤二朗めあてに映画を観た人も多いのではないでしょうか。
佐藤二朗という男は、以下のようにどうしようもない変態でした。
佐藤①娘に黙って殺人犯をさがす旅に出る。
佐藤②Twitterを出会い系だと勘違いしている。
佐藤③万引きをする。
佐藤④指を舐める。
佐藤⑤指を舐める時にチュパチュパと音を立てる。
佐藤⑥金がないのに舐める。指を。
ここで著者と比べてみます。
著者①家族に黙って上京する。
著者②文豪。
著者③TikTokで外国人女性の乳揺れダンスを見る。
著者④派遣社員。
著者⑤同居人がいる(仕事をしていない)。
私には殺人犯(佐藤二朗の敵)の気持ちがまるで分かりません。
個室ビデオ屋の部屋(金太朗の間)に案内してくださった好々爺にまるで感謝を見せず、「動いている女の子ダメなんですよ」とすら言い放ちます。
緊縛ものアダルトビデオに映った白いSOXに興奮した殺人犯(佐藤二朗の敵)は「じいじのおでこ」を日本刀で二等分にします。
「何故そんなことを」と打ちひしがれた私は、心の中でジジイに祈りを捧げました。これで終わりではありません。殺人犯はさらなる奇行に走ります。ジイジに白SOXを履かせて自分磨き(オナニー)を始めたではありませんか!私の祈りは届かなかったのでしょうか。
私は昨年の夏に湖のほとりでパンストと白いSOXだけを身にまとい、ドローンを股にくぐらせて遊んでいたのです。
ちなみに先月も衆人環視の畑の中で同じことをしました。その時のドローン操作が片手であったのは言うまでもありません。
倒れたクーラーボックスから缶ビールが転がる場面。そう、殺人犯が二朗と一杯よろしくやろうとしていたあの場面を見て、私は思い出したことがあります。
昔、コロッケが200円で食べられる立ち飲み屋に通っていました。そこで出会った好々爺と意気投合し、マンションの駐輪場で一緒に小便をしたり、飲み屋を一緒にはしごしたりしていました。バブルの時代に不動産で荒稼ぎしたと言っていたそのジジイが「俺はあと半年の命だから」と言って巻いていた腕時計を私にくれました。調べると、700円でした。
娘が同級生に胸をさらけ出すのを二朗が目撃するシーンがありますが、中学生の頃の私は友達にアダルトビデオを借りて1階の居間のPCで白SOXのジジイよろしく閲覧するのが好きでした。
ある日、2階から母親が降りてきたので、咄嗟に母親の好きな浜田省吾のCDケースにアダルトビデオを隠したことがあります。
コレクションが何枚もあったのでバレないだろうとたかを括っていましたが、比較的すぐにバレました。私はすぐに友達のせいにしました。
「お父ちゃんが、何をしたか知ってる」と涙ぐむ娘の姿に「お母さんのハマショウのCDどこにやったの」と困惑する母親の姿が重なります。何の勝負やねん。
この物語は、それぞれの登場人物が何かを「さがす」物語。
鎖を引きちぎって脱走した汚い愛犬を必死に追いかけたことを思い出し、私は佐藤二朗の中に柴犬を見ました。
うちの犬は腹が減ったのか夕方には自分で犬小屋に戻ってきましたが、佐藤二朗は何日経っても戻ってきません。佐藤⑦犬以下
スマホがたびたび物語の鍵となりますが、私はナンパしたギャルにスマホを地面に落とされたことがあります。Androidでした。
スマホにヒビが入った罪悪感からしおらしくなったギャルを抱くことができました(やったね)。
私は追いかけてばかりでした。あるときは犬、またあるときはギャルだったのです。
私は自分を磨かせてくれる相棒をさがしていたのかもしれません。