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詩の場所

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小山伸二の詩の置き場所です。
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#現代詩

詩集を読む

詩集を読む

『まーめんじ』細田傳造(2022年)栗売社

今年の3月3日発売の細田傳造さんのできたてほやほやの詩集。

1943年生まれの細田さんは、2012年、69歳のときに出した第一詩集『谷間の百合』(書肆山田)で、中原中也賞を最年長で受賞した詩人。

平易な言葉のつらなり、うねり、ささやく世界が、さざなみのように、そよ風のように紙面から立ち上がってくる。
地面に落っこちている記憶のなかの石ころが、細田さ

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雲の時代

雲の時代

きみが居てくれたらそれだけでいい
空があるのだから
どのくらいポケットのなかに
重たいものがぎっしり詰まっていても

父さんだって
たくさんの嘘を泳いできたんだ
事業のこととか父親との確執とか
ぜんぶありきたりのこと
母さんだって
恋したこともあったんじゃないかな
あの時代に
グラマンの機影に気づいたのと同じ耳と瞳で
樹を眺め
歌を聴いた
そんなこともあったはずだ

きみがここから見えなくなるのが

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鬼を撃たないで 小山伸二

鬼を撃たないで 小山伸二

ベルリンからミュンヒェンに向かう列車の中で

通訳者が隠した書類が

世界の運命を変えたかもしれない

理想と現実

情熱だけでは切り抜けられないんだ政治は

そう一喝される青年外交官

Netflixの配信を見つめるぼくは

採点待ちの学生たちのレポートを

同じパソコンのなかに放置したまま

煙草と酒が嫌いだった鬼のことを思い出す

殺人工場を発明させた鬼

有機農業と菜食主義を世に広めるた

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書肆梓・詩集『その他の廃墟』刊行

書肆梓・詩集『その他の廃墟』刊行

書肆梓の最新刊、詩集『その他の廃墟』。

著者の山内聖一郎さんの第一詩集となります。
著者の山内聖一郎さんは、1958年鹿児島県生まれ。ラ・サール学園中学校入学。この頃から詩作を始め、その後、県立の鹿屋高等学校に。
実は、この高校で、ぼくは彼の同級生で、同じ文芸部に入り、早熟な彼の影響をかなり受けて、詩や、文学の魅力に取り憑かれてしまいました。
その頃の彼のことは、ぼくの第一詩集『ぼくたちはどうし

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挨拶

挨拶

         中村哲さんに
星の丘をこえて
月あかり
渇いた喉をうるおす人々に影をつくる
いのちの水を
覚醒と酩酊の日々を
あなたとともに

井戸を掘る
地上の声を響かせるために
村にはかならずひとりの詩人が
この地を去るひとに送る挨拶を
時の番人をだしぬいて
この宴のなかで
われらが友に
たとえ地上に悲しみがたえなくとも
あなたの笑顔だけは忘れない
ありがとう、
そしてさようなら

離れる

離れる

北の花園から
土砂降りの境内まで
血を吐いてみせた
役者の顔も忘れてしまった
きみとの紅色のテント

乳飲み子との別離
声にならない嗚咽の響きは
一篇の詩をなしたのか
なんて遠くまで来てしまった
ちいさな画面のなかで笑ってくれた
その手に触れることもできない
この時代に

抱きしめてあげたい
と、囁いたあなたの声を
胸の揺り籠にいれて
蒼い空へ飛んでいけるかな
鳥ではない
ぼくでも

島の詩

島の詩

空港から二時間ほど走った島の突端
サンセットホテルのバルコニーからは
砂浜につづく道がある
だれもいない浜辺
虫がたくさん死んでいた
笑いながら
野草を煎じる女たち
豚の世話をする男の話を聞いて
陽気な女房の弁当を食べた
夏が終わらない島で
だれもが飽きずに雲を眺めていた
廃校の体育館
わすれ草ゆれる
泣かない島の
サンセットホテルの部屋に
夜明けまえの海風を呼び込んで
眠れないぼくは
からっぽに

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LUCKY

LUCKY

           ハリー・ディーン・スタントンに     

三月最後の月曜日の午後
ぼくは恋人にメッセージを送ると
地下の映画館に降りて行った
痛む右膝と左肩をかかえたままで

眠れない男の
月あかりにうかぶ洗面台で
テキサスのやさしい風が語りかける
ひとはみな生まれるときも
死ぬときも独りなんだ、と

alone
独りの語源は
all one
みんな、独り
ということさ

朝のコーヒー

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『さかまく髪のライオンになって』書肆梓・刊

『さかまく髪のライオンになって』書肆梓・刊

書肆梓 最新刊『さかまく髪のライオンになって』発売開始です。小山伸二の第4詩集になります。

A5定形(148✕210mm)無線綴じ186P、背幅15mm
52篇の詩
本体価格 2,000円+税(送料無料)

ご注文は、こちらから。
shoshi.azusa☆gmail.com ←☆を@にかえて下さい

納涼 書肆梓 夏まつり

納涼 書肆梓 夏まつり

書肆梓、最新刊の寝暮さん漫画、Colonia 最新号など、これまでの既刊本も含めて、ずらりと展示販売いたします。

当日は、寝暮さんはじめ、著者の方々も参加して、皆さんと楽しい午後を過ごせれば、と。

参加予定:
寝暮(『相変わりもせす』)、清水美穂子(『月の本棚』)、小峰慎也(『二体』『いい影響』)、小山伸二(『ぼくたちはどうして哲学するのだろうか。』『雲の時代』)。

会場:古本バル 月よみ堂

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くせ毛

くせ毛

ひどいくせ毛
つむじもふたつ
ランドセル背負って歩いている
床屋の親父
嬉しそうに
生え際がとくにきついね、だって
まるでコブラツイストかけてるみたい
ぜんぜん笑えない
むかつくサムライ
世が世なら叩っ斬ってやるのに

であえ、であえ
くせ者だ
くせ毛者だ
不穏の闇屋敷

犬の遠吠え

火消しの打ち上げ

であえ、であえ

江戸っ子なら酒をあおって

蕎麦もずずっと
居眠りだって平気の平左

であ

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たこ焼きの歌

たこ焼きの歌

たこたこ
みんなで食べる
たこたこ
みんなでつつく
たこたこ
哲学しよう
たこたこ
ここで遊びましょ
たこたこ
ソースをかけて
たこたこ
人生かみしめよう
たこたこ
みんなで食べる
たこたこ
みんなでつつく

文学b

文学b

秋の声が届いた
図書館で借りた物語のなかで
登場人物は
自分のノートを破り始める
お行儀のいい生活はやめにします
これからは本音で生きたいから

言葉にならない感情を
埃まみれのフラスコのなかでかき混ぜる
ランドセルを背負ったギャングたち
爆発もなければ
煙も出ない
世界なんてウンコだよ
わざと声に出して
はしゃぎながら中央線に飛び乗ってくる

国立五小を卒業した女子が
大人になってドイツで暮らし

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文学a

文学a

大型クレーンが乾燥した冬に立ちならぶ
国立競技場建設現場
編集者は夢中になってシャッターを切っていた
会議室のベランダ
百年の出版社
ぼくは作家の亡霊を眺めている
暗い会議室
いまも
中上健二が
大きな背中を丸めて
小さな文字を書きなぐっている

半島からやってきた物語
大団円を殺せ、と呟いたのだったか
つよい酒をあおって
岬から
船を漕ぎ出した
おおきな翼をつけて
ゆっくりと
海を打ちすえて

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