雲の時代
きみが居てくれたらそれだけでいい
空があるのだから
どのくらいポケットのなかに
重たいものがぎっしり詰まっていても
父さんだって
たくさんの嘘を泳いできたんだ
事業のこととか父親との確執とか
ぜんぶありきたりのこと
母さんだって
恋したこともあったんじゃないかな
あの時代に
グラマンの機影に気づいたのと同じ耳と瞳で
樹を眺め
歌を聴いた
そんなこともあったはずだ
きみがここから見えなくなるのが怖い
空は残っていても
どんなに甘いドロップが唇を濡らしても
地上には
届かない願いがあることを
みんな知ってしまったから
あとどのくらい時間は残っているだろう
きみたちに
土の中の虫たちの眠りと目覚めを
おなじように生きていく
きみたちの時間は
そろそろ帰ることにしよう
きみが思っているような
そんなところじゃないんだよ
言葉はない
音も
香りも
映画の中でだれかがつぶやいただろう
ナッシング、だって
そうだ
ナッシングがひかりの粒になって
みちあふれているところだよそこは
急いじゃだめだ
理由は聞かないでいいから
急いじゃだめだ
生きているあいだは