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文学b

秋の声が届いた
図書館で借りた物語のなかで
登場人物は
自分のノートを破り始める
お行儀のいい生活はやめにします
これからは本音で生きたいから

言葉にならない感情を
埃まみれのフラスコのなかでかき混ぜる
ランドセルを背負ったギャングたち
爆発もなければ
煙も出ない
世界なんてウンコだよ
わざと声に出して
はしゃぎながら中央線に飛び乗ってくる

国立五小を卒業した女子が
大人になってドイツで暮らして小説を書いているんだ
新作はフクシマ以降のニッポンを書いているらしいよ
増田書店でそう説明してくれた父さん
物語のなかでは
人妻をさらって家を出たまま
帰らない男という設定
いまごろミュンヘンあたりで熊にでもなって
ビールを飲んでる時分かな
居なくなった父さんにも秋の声が届くといいね

大人たちはわざと苦い珈琲を啜りながら
朝のテレビの話をする
親に殺された子供
奈良のお寺の見事な紅葉
遠い国のおそろしい病気
脈絡の糸をわざとちょん切って
終わりの始まりの時代を生きている
いつか温泉に行きましょう
ほんとうは悲しいことなんか何ひとつないんだから
なんて挨拶を交わして

地下の店では詩人が朗読をしている
古文の教科書から飛び出した鹿が
全国各地の山を荒らして
農家のひとが困っています
でも鹿は、ぴゅうって、淋しそうに鳴くんだよ
旅先からメッセージを送ってくれた友だち
猟師さん、お願いだから鹿を撃たないで
不吉なニュースが駅前で売られている秋に

いいことなんか何もしてないんですよ国は
白い手袋のひとが演説をする
銀杏の影を蹴散らしながら
小学生たちが元気に消えていく
怪しい罠に落ちないで、と
行き止まりの運命論をイヤホンで聴く
おじさんの呟きは届かない
ファミレスで陽気にはしゃいでいた
娘たちもすっかり歳をとって
みごとな胸をスイングさせながら
パン屋のまえの横断歩道を渡って消えた
すっかりやけをおこした息子たちは
夜のバス通りを歩いて帰る
行方知れずの父親たちをまねて

夜の歯磨きをすませてから
ガスのぬけたコーラをお酒に見立ててあおる
いつか、きっとぼくの本を全部あげるよ
だから
ぼくの部屋においでよ
と、伝言した青年も
この町から居なくなった
秋の声が届く十一月から


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