H.Shimmatsu

東京工業大学大学院社会理工学院博士課程単位取得満期退学。専門はヤーコプ・フォン・ユクスキュルの思想。感性学としての美学が好きです。noteは基本的に雑記です。だいたい山にいます。きのこ採ってます。

H.Shimmatsu

東京工業大学大学院社会理工学院博士課程単位取得満期退学。専門はヤーコプ・フォン・ユクスキュルの思想。感性学としての美学が好きです。noteは基本的に雑記です。だいたい山にいます。きのこ採ってます。

マガジン

最近の記事

ユクスキュル未邦訳文献(1)Was ist Leben?

ユクスキュルの未邦訳文献の日本語訳の一部を公開。ちなみにオリジナルの版権は切れていますので、ご安心を。 "Was ist Leben?" 『生命とは何か?』という、たった1ページの小論は1920年(ユクスキュルが56歳のとき)に"Die Neue Rundschau"に掲載されたものです。 この論文の争点は20世紀初頭の生物学らしく、創発を巡るものとなっています。彼は「機構(Gefüge)」と「構造(Struktur)」という概念を使い分け、部分と全体の関係を論じています。

    • An aspect of Reception of Uexküll's Umwelt in Japan(1)

      Uexküll's works able to be read in Japanese A Foray into the Worlds of Animals and Humans. Environment and inner world of the animals (The almighty life) 'Animals' as buzzword  In order to grasp how Umwelt theory is recently understood

      • ユクスキュル・リバイバルの色々①

        ユクスキュルリバイバルの周縁  近年、特に英語圏でのユクスキュルリバイバル(とまではいかないものの再注目)が生じつつある。そのひとのきっかけがユクスキュルの著作を改めて英訳するプロジェクトだ。その中でも特に2010年に再訳された"A Foray into the Worlds of Animals and Humans: with Theory of Meaning"は訳者の序文も含めてかなり評判がいいようだ。(日本でも邦訳のプロジェクトがありますので、お待ちください。)

        • 映画『ジョーカー』と原因なき結果

          私は薄寒いサスペンスの殺人シーンが好きです。特に突発的に人を殺してしまった後、呆然とたちすくんでしまう犯人の様子がなぜか心に残る。しかし、なぜ犯人は呆然としてしまうのか。ナイフや包丁で人を刺したら死ぬことは誰にもわかることです。しかし、犯人は自分のやってしまったことに驚き、茫然自失となってしまう。 ドラマでは警察や探偵が犯行の動機を解明しようとします。痴情のもつれ、金銭トラブルなど、殺人が起こった原因を解明しようとする。殺人を因果関係の中に位置付けようとする。原因なき結果な

        マガジン

        • 雑記
          7本
        • 研究紹介
          2本
        • 言語
          2本

        記事

          研究紹介⑵:動物は「閉じている」?

          前回の記事で生物学者ヤーコプ・フォン・ユクスキュルという人物が新たな生物学を構想したという話を紹介しました。具体に的には、環世界(Umwelt)という概念によって、生物はそれぞれ全く異なる世界を生きているのだということを示そうとしたのでした。 ユクスキュルの主張は世界は眺め方によって異なって見える、ということではありません。一つの世界をさまざまな生き物が各々の視点で見ているのではなく、そもそも世界というものがいくつもあるという主張なのです。(近年、人類学で注目を浴びた多自然

          研究紹介⑵:動物は「閉じている」?

          研究紹介⑴:生き物の世界を覗く

          「ヤーコプ・フォン・ユクスキュル(Jakob von Uexküll)」という人を知っているでしょうか。彼は19〜20世紀を生きたエストニア生まれの生物学者です。彼は環世界(Umwelt)という概念を提唱した人物として知られています。私はユクスキュルの生物学理論の研究をしています。 彼は生物学者でしたが、他の多くの生物学者とは全く異なるアプローチで生き物を理解しようとしました。多くの生物学は身体の仕組みを理解しようとする学問です。骨と筋肉はどう繋がっているのか・胃や腸はどの

          研究紹介⑴:生き物の世界を覗く

          味覚と記憶あるいは恋愛とトラウマ

          2007年のピクサー映画『レミーのおいしいレストラン』には味覚が幼少期の記憶を呼び起こすシーンがある。ラタトゥイユを口に入れたとたん、幼い日の出来事や母親が作ってくれた料理の味、暖かな家庭の雰囲気が過去の記憶として呼び起こされる。 記憶という言葉はさまざまな使い方がされる。多くは個人の過去の経験を現在に呼び起こす事を意味するが、大きな災害や事件など、社会全体が共有する非人称的な記憶も存在する。 ドイツ語には記憶を意味する単語が二つある。GedächtnisとErinner

          味覚と記憶あるいは恋愛とトラウマ

          大人になれない世界で

          1994年、アメリカで『フレンズ』というTVシリーズがスタートした。『フレンズ』では、社会に出たけれど、どこか大人になりきれない20代〜30代の登場人物たちの生活や恋愛が中心に描かれていた。 かつては、アメリカにも日本にも「大人」がいた。働き、結婚し、家庭を持ち、決して全てに満足しているわけではないが、それでもなんとか生きている大人たち。私が子供の頃にも、まだ大人は居たように記憶している。 その頃の社会の中には、子供にはなんだかよく分からない大人だけの居場所があった。スナ

          大人になれない世界で

          英語を使えているとはどういうことか?

          現在、私は日本語、英語、ドイツ語を使えています。 では言葉を使えているとはそもそもどういうことでしょうか。 多くの言語学習者にとって、言葉を使えるということは、ネイティブの英語話者、ドイツ語話者と会話ができること、と考えられています。 しかし、ここで問うべきは自然言語を用いたコミュニケーションとは一体何か?ということです。言語を使えるようになることで、どのようなコミュニケーションが可能になるのでしょうか。 言語にはルールがあります。学校で習う文法は言語を有意味なものに

          英語を使えているとはどういうことか?

          未分化な装い

          ファッションほど性差を明確に表すものはない。レディース/メンズのバイナリーはファッションの前提になっている。 2010年代の東京は男性のファッションが極度に中性化してゆくという方向に向かっていた。黒いスキニージーンズ・腰回りが隠れるような太ももまで丈のあるトップス・髪型はマッシュ。これは明らかにこれまでの「男らしさ」に対するアンチテーゼとして出てきたものだった。2010年代の男性のファッションは概ね、筋肉質であること・ヒゲ・短く刈り込んだ髪の毛、といった従来の男性的な身体的

          未分化な装い

          なぜ学校教育で英語は身につかないのか

          かつては言語習得は幼少期でなければ上手くいかないと言われた時代があった。しかし、現在の研究ではどんなに年齢を重ねていても、言語習得は可能だとされている。もちろん、年齢によって習得速度に違いはあるようだが、とにかく可能である。 私は多くの人と同じように中学、高校で英語を習ったが、全くしゃべれるようにならなかったし、洋画を字幕なしで見ても何を言っているのかほとんど聞き取れないという状態だった。 まず私は大学入学を機に言語習得とはどのような過程なのか、そもそも言葉を身につけると

          なぜ学校教育で英語は身につかないのか

          毒親のコミュニケーション

          人間関係のなかでも、最も逃れがたいものが親と子の関係です。子供が初めて人間的な関係を築くのは親とであり、その関係は人生に決定的に作用します。 良好な親子関係もあれば、上手くいかない親子関係もあるでしょう。そのなかでも「毒親」という言葉で表される、子供を抑圧し過度にコントロールしようとする親のコミュニケーションについて考えてゆきます。そしてそこからいかにして毒親から逃れる事が出来るかを論じてゆきましょう。 では毒親に固有のコミュニケーションとはどの様なものでしょうか。その特

          毒親のコミュニケーション

          なぜアイデンティティの苦しみから逃れられないのか〜依存論〜

          現代を生きる人間にとっての苦しさの一つに「自己」についての苦しさがあります。自己をめぐっては「自己肯定」や「アイデンティティ」、「理想の自分」などさまざまな言葉が用いられますが、そのような悩みはそもそもなぜ存在するのでしょうか。 このエッセイでは哲学から理由を説明し、考えられる解決策を提示してみようと思います。 自分探しという言葉があります。旅などをして、さまざまな人との出会いから自己について学ぶという行為を指す言葉です。 実際に自分探しの旅に出ていなくても、ほとんどの

          なぜアイデンティティの苦しみから逃れられないのか〜依存論〜

          なぜeスポーツは批判されるのか(解説)

          さて、皆さんはeスポーツはお好きですか?最近ではゲームに関するテレビ番組もありますし、またネットのストリーミングではゲーム実況は最も多い配信コンテンツになっています。 以下、この記事ではeスポーツという言葉ををオンライン上の同一のプラットフォームに複数のプレイヤーが参加できるタイプのゲームを指すことにします。 そのようなeスポーツに対しては様々な批判が見受けられます。そうした批判は、スポーツと呼ぶことへの違和感であったり、あるいは対戦相手を殺すタイプのゲームに対する批判で

          なぜeスポーツは批判されるのか(解説)