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夢みる機械

ゲームと言えば64派で、ゲーム音楽と言えばレア社だった。
 
漠然とした憧れからゲーム音楽を作りたいと伝手に伝手を辿り、例の合併した超大手会社のスマホゲームに数曲BGMを提供したことがある。こりゃ、大金持ち待ったなしだなと思って振込料を見るとたまげる金額だった。悪い意味で。これがフリーランスの弊害か…。
 
これから養ってやると弟に豪語していた手前、死ぬほど恥ずかしかったし、苦労して手に入れた仕事の見返りを思うとやるせなく、ゲーム音楽作りの夢は程々に諦めてしまった。それから三年、色々な事を諦め続けて今や立派な自宅警備員である。養うと言った弟には養われ、恥も外聞もあったもんじゃない。
 
ゲーム音楽に挫折した当時の悶々とした心は現実逃避を求めていた。それも矛先も結局ゲームだった。この機械は人に夢を見せる。目覚めたままに現実を忘れ、電子の夢の世界へ観念を没入させる。夢見せる機械…『夢見る機械』?…なんだかオシャンティな言葉を創造した気がする。そう思った俺はネットで検索を掛けてみた。誰もまだ編み出してない字面なら、作曲に使っちゃおうなんて軽く考えて。そう考えたのが命取りだった。
 
それがステルス・メジャーこと平沢進との出会いになった。氏の音楽は劇薬で用法容量を守って正しく摂取しなければ大変な事になる。彼の『夢みる機械』という曲を聴いた者は皆「エントロピー!ネゲントロピー!」と連呼しだすのだから。
 
彼のファンを人は『馬の骨』と呼ぶ。あれから三年、引きこもった今、名実共に真の馬の骨となった俺は誇らしく「エントロピー!ネゲントロピー!」と口ずさむ。
 
「エントロピー!ネゲントロピー!」
深い意味は分からないが、塵を減らし秩序化する、ということだろうか。生産性が無い自宅警備員にぴったりの呪文だ。

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