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パルプ・イントロ、あるいはアイデアメモ

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タイトルそのままです。
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2018年10月の記事一覧

怨霊、はじめました

「いらっしゃいませ〜」

 能天気な声をかけられ、私は困惑していた。
声の主はカウンターの向こうにいる。愛想のいい笑みを浮かべた女性。喪服のような黒い装束。漂白されたような髪と肌。

「あの、すみません。ここは……?」
「幽霊専門店『恨みはらさでおくべきか』でございます。いやあ、お客様も思い切って飛び降りなされましたねー。わたくし、思わず感心してしまいました」

 にこやかな言葉にこちらの背

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冥剣サーベラスの担い手

 オルフェは断言できる。世に魔剣の類は数あれど、自分が引き抜いたのはまごうことなき『外れ』であると。
 それは決して、彼女の得物……獄炎の冥剣サーベラスがなまくらということを意味しない。揺らめく炎のごとき刀身に、常にまとわりつく黒い炎。鎧ごと敵を切り裂くことだってできる。

 だが。

『あはははははは!』
「止まりなさいこのバカ剣! ……ギャー! そこの人たち、どいて! どいてぇぇぇ!』

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夜の探し人

 夜。眼下に見える街並みは無機質な光に輝いている。コフィン・ビル最上階の特製暗室の主、加賀美は溜息をついた。なんとも、暮らしにくい世の中になったものだ。
 街の明かりは昼と変わらないほどに眩い。皮膚が焼けることはないだろうが、それでも嫌悪感は残る。

 それに。暗闇の中で瞳が紅く輝いた。街のあちこちをツーマンセルで行くのは、機械化装甲を身に纏うアンドロイド・ガード。
 あの手の味気ない連中も増え

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超高難度脱出ゲーム〜水中編〜

 差し込む日光が、周囲を泳ぐ色とりどりの魚たちを、美しいサンゴ礁を照らし出す。
 絶景と言い切っても差し支えない光景を前に、しかし小鳥の気持ちは重かった。正確に伝えるのであれば、そこに気持ちを向ける余裕がなかった。

「なにがどうなってるの、これ……」

 疲れた呟きが漏れる。それはどこにも届くことはないだろう。
 なぜといって、今彼女がへたり込んでいるのが綺麗な球形をした泡の中だからだ。どう

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太陽の少女と冬の魔女と

 ノーサは、彼女と初めて出会った日のことを忘れないだろう。滅多にない青空の日だったから。
 また、彼女のことも忘れないだろう。珍しい旅人だったから?それだけではない。

 決して忘れられないだろう。炎のように赤い髪を。
 決して忘れられないだろう。凍てつく空気などものともしない、あの薄手の服を。そこから覗く、よく日焼けした肌と、その上に刻まれた神秘的な紋様を。
 ……決して忘れられないだろう。

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パニック! インベーダー

 出会いはいつも唐突だ。
 宇宙から落ちてきた金属質の球体は、隕石のごとく屋根をぶち破り、にもかかわらず周囲へ衝撃など発生させることなく『着陸』した。

 驚愕の視線の中、球体の一部にぽっかりと穴が開き、そこからなんとも名状しがたい体色の軟体生物が這い出してくる。
 その目と思しき器官が最寄りの人間に向けられる。次の瞬間、軟体生物は一瞬にして伸び上がり、絡み合い、人間そっくりの二足歩行形態へ変形

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ガリアちゃんのわくわく王都訪問記

 謁見の間は緊張に包まれていた。近衛騎士団の精鋭たちが勢揃いし、玉座に座る王と、傍らの王女を守護している。

「……来たぞっ」

 誰かの囁きと同時、王の前に黒い雷が落ちた。それは幾度となく宙を裂き床に複雑な魔法陣を描き出す。
 一際強い輝きのあと、『それ』が姿を現した。

 闇夜に浮かぶ月を思わせる青白い肌。ねじれた二本の角。そして騎士たちがまるで子どもに見えるほどの体格。
 魔王と

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隠神高校の化学試験

 教室に入ってすぐ、淵仮は友人たちが教室の隅に集まっているのを見てとった。

「おはよ、川瀬。なにしてんの?」
「あ、ふっちー。聞いた? 化学で抜き打ち試験やるんだって」
「マジ?」

 なるほど、道理でクラス中が身の回りに気を使っているわけだ。化学でまず見られるのはそこなのだから。

「信田さー、耳なんとかしたほうがいいって。絶対ひっかかる」
「わかってるよ! そういう勝山もさ、目の隈ヤバ

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やはりあなたの正体は

「もう隠し事はやめましょう。お互いに」

 放課後、校舎裏。絶賛交際中の希美の言葉に、正義は心を決めた。もはや感づかれている。
 認めたくなかった。だが、いつまでも顔を背けてはいられない。

「……そうだな。希美。先週、デートの途中で用事があるからって帰っていった。あのあとどこに行ったんだ? 魔獣が現れたばっかだったってのに」
「正義くんこそ。ちらちら携帯ばっかり見ちゃって。そんなに……気にな

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アークエネミー・ハウス!

 薄暗い闇の中、精巧な機械人形が朗々と告げた。

「喜ばしい知らせです。我らが盟主がまた一人、同志の召喚に成功しました」
「タイタニアと申します。以後お見知りおきを」

 豪奢なドレスの裾をつまみ、美女が一礼。その背からは透けるほどに薄い翅。
 椅子に腰掛けた獣人が興味深げに唸る。

「妖精族か? 懐かしいのが来たもんだ」
「ええ。あなたの世界にも我が同胞が?」
「もういねえ。人間にやられた」

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泉から湧いてきた美少女と美少年の話

 ことの始まりは、あの泉に落ちてしまったところからだ。なんで僕はあんなところでつまづいてしまったのか。未だに悔やみきれない。
 次に起きたことは、こうだ。

『落ちてきたあなたは、このいつまでも若々しい少年ですか? それともこの道行く人がつい振り返ってしまう美貌の少女ですか?』

 水中で突如出現したその女はにっこりと言った。
 無論のこと、僕は首を横に振ったのだ。そんな自分の見た目に自信

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これはよくある観察日記です

 それは目覚めてすぐに、自分が見知らぬ地にやってきたことに気づいたのだと思う。はるか宇宙から見たこともない乗り物でやってきたそれは、辺りを見渡して一声鳴いた。見慣れぬ場所に置かれたストレスか。この地を離れたことのない私は想像することしかできないが。

 幸運にもそれには傷ひとつなく、動くことに支障はないようだった。
 私にとっても嬉しい誤算だ。新しい種を飼育したいと思っていた矢先に、ゲージ随伴で

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怨返しで逝こう!

「死ねェェェーッ!」
「ギャーッ!」

殺虫剤の匂いを漂わせた茶褐色の昆虫人間の攻撃を転がって避けた俺は、勢いを活かして立ち上がるとそのまま全速力で逃げ出した。我ながら漫画じみた挙動である。

「ここであったが百年目ギャーッ!?」
「ギャーッ!?」

唐突に地面から顔を出した昆虫人間ブラックに足を引っ掛け、転倒。相手も悲鳴を上げているが知ったことか。こっちは危機的状況なんだ。

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ゾンビ護配送団の憂鬱

「待って……!」

両手を前に翳し哀願する少女……正確には『元』少女へ、キリィは無慈悲に剣を振るった。
変色した肌、光のない眼。相手がゾンビーであることは明らかだ。見過ごしたら禍根を残す。故に斬る。
果たして刃はゾンビーの身体を斜めに断ち切った。

『テメーッ!商品に傷つけやがったな!』

が、その後の出来事はキリィの想像を超えていた。
ゾンビーのそれではない声音の罵声とともに、噴出し

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