怨霊、はじめました

「いらっしゃいませ〜」

 能天気な声をかけられ、私は困惑していた。
声の主はカウンターの向こうにいる。愛想のいい笑みを浮かべた女性。喪服のような黒い装束。漂白されたような髪と肌。

「あの、すみません。ここは……?」
「幽霊専門店『恨みはらさでおくべきか』でございます。いやあ、お客様も思い切って飛び降りなされましたねー。わたくし、思わず感心してしまいました」

 にこやかな言葉にこちらの背筋は凍る。間違いではない。私は……死んでいるのだ。

「当店、現世に大なり小なり残った未練を晴らすお手伝いをさせていただいておりましてー」
「ぐ、具体的には?」
「小さな恨みでしたら……衣装貸し出しおよびメイクですね! 死亡時の姿を再現して相手の枕元へゴー! 魘されるのを楽しみましょう!」

 店主は不意にニヤリと笑う。

「……それがご不満でしたら、技能訓練も実施しております。相手を地獄に引きずり落とす、ね」

【続く】

#逆噴射プラクティス

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