短文「かく」

 小学生のうち、彼らは鉛筆という消すことが可能な用具を使う。大人はそうはいかない。
 消せるものであってはならないのだ。摩擦や雨風に耐えうる濃厚なものであれと。
 状況にもよるが、やり直しが効かないわけではない。その上から白線で隠すことだって大人は得意なのだ。
 それが嫌な大人は、そもそもの土台を変えてしまう。たとえまだ余白のあるものでも。

 赤で人の名前を書くことはご法度と言う。赤という攻撃的な色は、しばしばネガティブな意味合いで用いられる。赤紙や果し状の朱書き、財政的な赤字などがそれにあたる。そもそもが、肉に流れる血潮の色だからなのだろう。
 しかし赤は情熱的な色でもある。意中の相手の名前を赤で記すなど素敵ではないか。過去の風習に囚われて新たな道を拓かずにいるのは窮屈なことだ。一歩を踏み出すことは、一本を手に取ることでも構わない。

 私は赤い色鉛筆を選んだ。そしてその後、固い金属製のものに取り替えた。

ありがとうございます。 作家になるための糧にさせていただきます。必ず大成してみせます。後悔はさせません。