詩「おゝ神、あゝ免」

 狼は敗北を喫した。
 自分はこんなにも弱かったのか。恥ずかしくなった。
 己の信用をやめた。仲間に裏切られた。
 他者の信用をやめた。大量の死体を見た。
 神の信用をやめた。動機が馬鹿らしくなった。
 荒野を歩いた。
 当てもなく、ただ足が棒になるのを待った。

 狼は吠えた。擦り切れるような弱々しさであった。
 赤い視界は血涙のためか、轟々と燃え盛る森を見てか。痛みが物理的なものか精神的なものか判断がつかず、境目もわからない。

 狼は尾を揺らした。遠吠えも出来ず、仲間を呼べないなら、とせめてもの力で夜空の下に動きを齎した。
 麻酔銃なるものがある。人間が我々に向けるものの一つだ。体の自由は奪われ、意識は途切れるが、命は奪われない。
 けれども全てがこうではない。人間の持つ武器は数多にある。この麻酔という技術のみを行使してくれれば、怒りも、悲しみだって、生産が止まるというのに。

 狼の脚が止まる。狂犬病になんて罹らない。それは、正気だという傲慢のみに許された裏付けであった。
 もう何も信じられないし、信じたくない。

 狼はゆっくりと脚を折った。疲労が牙や爪の先まで充満している感覚がある。
 脳の皺が迷路のように見えるのは、何か意味があるのではないか。そんなことを考えた。
 考え過ぎたり頑張り過ぎたりすると迷ってしまう。よくあることだ。いや、心当たりがありすぎるくらいだ。あの皺は、啓示のように刻み込まれた、創造主による仕業なのではないか。
 つまり、迷うことがはじめから決まっている。前提なのだ。とすれば、出口もあるということ。目的地でも何でもいい。迷った時点で、抜け出す方法がある。それは素晴らしい情報であり、活力になる。

 狼はそれを希望と呼ぶことにした。
 そして静かに目を瞑った。

ありがとうございます。 作家になるための糧にさせていただきます。必ず大成してみせます。後悔はさせません。