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【小説】あと18日で新型コロナウイルスは終わります。

~彷徨(ほうこう)~

⚫⚫さんに紹介状を渡し、パートナーと二人で帰っていった後、保健センターと紹介先の総合病院に詳細に報告した。念のため、助産院にも連絡を入れた。

「これですべて良い方向にいけばいいですけど。」

院長と看護師は話したが、なんだか落ち着かない気分だった。



それから数日経ち、総合病院から電話連絡がきた。

「昨日、⚫⚫様の予約日だったのですが、来院していません。電話にも出ません。そちらに来院や連絡はありませんか。」

コロナの影響で、総合病院は完全予約制をとっていた。

「いいえ、ありません。何かありましたら、すぐに連絡します。」

看護師はそう答えて、すぐに院長に報告した。

「こちらの役目は終えた。総合病院から連絡があったことも、⚫⚫さんには知られてはならないから、こちらから電話をかけるのは不自然すぎる。スマホ自体は解約していないみたいだから、数日後、総合病院にひょっこり現れるかもしれない。あとは総合病院と保健センターにまかせよう。こちらは、⚫⚫さん側から来院や連絡など、何かしらのアクションがあれば対応しよう。」

さらに1時間後、保健センターから同じ内容の電話連絡があった。そこで、新たにわかったことは、▲▲助産院にも来院も連絡もないとのことだった。

「我々は少し焦りすぎたのかもしれない。」

院長も看護師も、⚫⚫さんとお腹の中の子ももちろん気になるが、上の子二人の安否確認と保護も忘れられなかった。

保健センターは、かなり広範囲に渡って、産科がある医療機関に連絡を入れていた。

このまま自宅分娩になるのだろうか。

そもそも、二人には自宅があるのだろうか。

ホテル住まいか、ネカフェ暮らしか、友人知人宅を点々としているのか。

最悪、公園などで野宿かもしれない。今の季節はもうかなり寒いだろう。

どんどん最悪な方へ考えていってしまう。



どの医療機関にも、⚫⚫さんから来院や連絡をしなくなって、数週間が経った。とうとうスマホも繋がらなくなり、⚫⚫さんとパートナーの所在は完全に不明になった。

コンビニのトイレで新生児が放置されていたり、公園の芝生から赤ちゃんと思われる遺体が見つかったとテレビで報道される度に、⚫⚫クリニックにも緊張が走ったが、別の犯人が捕まったり、大きさから別の赤ちゃんとわかるとほんの一瞬ホッとしたが、この世の中で、生まれてくる親を選べなかった赤ちゃんを不憫に思い、また同時に怒りもこみ上げてきた。

⚫⚫さんとパートナーは、一体どこへ行ってしまったのだろう。

新型コロナウイルスが終わるまで、
あと18日。

これは、フィクションです。

 ◆自殺を防止するために厚生労働省のホームページで紹介している主な悩み相談窓口

 ▼いのちの電話 0570・783・556(午前10時~午後10時)、0120・783・556(午後4時~同9時、毎月10日は午前8時~翌日午前8時)

 ▼こころの健康相談統一ダイヤル 0570・064・556(対応の曜日・時間は都道府県により異なる)

 ▼よりそいホットライン 0120・279・338(24時間対応) 岩手、宮城、福島各県からは0120・279・226(24時間対応)

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