あの子も私も、あなたも、がんばってるね|不登校・発達障害 育児日記
「ねえ。明日は学校、行ってみる?」
私の問いかけに対し、長女の返答は「いこっかな」だった。
「支援室ものぞいてみようか」
「うーん、そうだね」
そんなことを言っている隣で、次女がソワソワしている。
「明日の時間割はなあに」
夫が、ランドセルの中から連絡ファイルを取り出して伝える。
国語がどうやら3・4時間目と連続するらしい。
「ええ。やだなあ」
次女は言った。
ちょうどその日にも、「3・4時間目で算数が2回もあっていやだ」と涙して、夫と早退したのだった。
「国語や算数の、なにがイヤなの?」
けして責める意味合いは含めずに夫が彼女に尋ねたけれど、次女は涙を目にためるだけだった。
少し難しくなってきた勉強。いったん躓くと、説明しても頭になかなか入らない。
授業がイヤだと泣くから早退させるだなんて。
自分が子どもの頃だったら、どう思ったかな。甘い!って、思ったかな。
一応、自分はイヤでもがんばって行ってたよなあ。
でも、単純に「勉強がイヤ」とはまた、きっと温度が違う涙なんだ。
まだまだ、自分の気持ちを言語化することが難しい、自閉症でADHD持ちの次女。だからこれは私の勘でしかないけれど、間違いではないと思う。
毎日、学校に行かない姉がいるんだから、この気持ちには寄り添わないといけない。
翌日。
担任の先生と面談して、支援室の見学に行くことにした長女。
「長女ちゃんの面談だけ、いっしょにくる?」
次女にそう言うと「うん!」と安心したように言った。
まあ、いっか。私はそう思い、アプリで連絡を入れた。
いつもは確認の通知のみなのが、その日はすぐに電話がきた。
『2時間目、お誕生日会なんですよ。次女ちゃん気づいていないかもと思って。10月お誕生日の人は主役だから、それだけでも来れないかな?』
先生の電話をスピーカーにして、次女に確認した。そういえば、親友のHちゃんが、カードを書いて準備してくれているとも聞いていた。
「行く?」
私が確認すると「うん、誕生日会は、行く!」と次女。
「待ってるね。ぜひ、長女ちゃんもいっしょに」
先生の朝なんて明らかに忙しいだろうに、長女まで気にかけてくれたことに感謝しかなかった。
長女の担任の先生との面談では、タブレットの持ち帰りの説明があった。宿題をタブレットにすることで、お互いの負担を減らす目的が、あるとか、ないとか、どうだか、こうだか……。
授業にも出ていないし、家では宿題も手につかない長女。
でも、タブレットなら、手に取りやすいかもしれない。そんなことを相談していた矢先のタブレット解禁。しかも、本来は週に一度の持ち帰りなところを、「副校長先生に今許可いただいたので、このまま、持って帰ってください!ずっと持ってていいです」と、担任の先生からのひとこと。
そして、相談室に行こうか、と歩き出すと、ちょうど校長先生が職員室から出てきた。
お年を召した女性で、とても元気な先生だ。
「あ!長女ちゃん!次女ちゃんも今日はいっしょね。来てくれたのね~すばらしい!エライ!お話してくの?楽しんでいってね!次女ちゃんもまたね!」
タブレットの説明の前に、保健室で、受診できていない視力検査と身長・体重を測定。
「健康診断おねがいします」の長女の言葉に
「わあ、先生もお願いしたい!やらせてください😊」と、キュートにほほ笑む先生。保健室ヘビーユーザーの次女、わが物顔で保健室をうろついていた。
「とっても順調。身長も体重も伸びています。健康ですよ!」と私にもその笑顔をわけてくれた。
ああ。みんなみんないい先生。大好きが止まらない。
ただし、支援室の空気は、彼女には少し異質に感じた様子だった。
「ちょっと、違ったかな?出ようか。顔色があんまりね…」
担任の先生も感じ取れたように、長女はすっかり不安たっぷりになってしまった。
教室に入れない子のための「支援室」。といえど、その見た目も形も「教室」には変わりない。彼女にとってはまだ、ハードルが高かった様子だった。
でも、この前、約束してくれた通り。見学には来れた。
だから、本当にえらかったね。
2時間目に入ると、長女の担任の先生は授業に戻っていく。
次は次女のクラスの様子をのぞきに、3人並んで向かった。
「あ!次女ちゃんだあ!」
次の時間には誕生日会です。時計の長い針が8に行くまで、机の上で塗り絵やお絵描き、好きなことをして、待ちます。
そんな指示を受けているところでの次女&長女の登場で、にわかに沸き立つ個別支援級の教室。当然、机から離れてしまう子も出てしまう。
「すいません……」
と言いながらの私に対し
「連れてきてくれて、お母さん、ありがとうございます!主役がやはり、いないとね!」
笑顔を向けてくれる先生たち。
「長女ちゃんもいっしょに来てくれたんだね。教室に入ってどうぞ」
お迎えでもよく顔を合わせる長女は、次女のクラスにすぐになじんだ。次女が普段から、長女と一緒になにをしたかという話を、してくれているおかげでもある。
「あー長女ちゃんだあ」
「見てみて、これ書いたの」
「いっしょに誕生日会きてくれるの?」
「この前、お絵描きしてくれてありがと~」
次々に次女のクラスメイトに囲まれる長女。彼女は、この教室ではとても和やかにすごしていた。
次女の話も普段聞いているからか、話が支離滅裂にもなるひとりひとりの話を「うん、うん」と笑顔で、とてもうれしそうに聞いていた。
昔から。彼女はとても聞き上手な子なのだ。
1階の教室には、まぶしいくらいの日の光が差し込んでいた。
私から離れて、教室の窓際の次女の席に椅子を並べて座る長女は、輝いて見えた。次女も、自分の姉を隣に迎え、とても誇らしそうだった。
その尊い光景に、涙が湧いてくるのをこらえた。
最近、どうやら、涙もろくなったみたいだ。
2ヶ月に1度くらい。誕生日を迎えた人が前に座って、各学年合同で開催するお誕生日会。ちょっとゲームしたり、司会を指名された人が自分のペースでがんばったり、歌を歌ったり。お誕生日会は、進行が行ったり来たりしながらゆったりと進んだ。次女は終始楽しそうだったが、最後のインタビューでは、恥ずかしくってなにも言えなかった。でも、それでもいい。みんなは「そこにいること」「生まれてきたこと」に拍手をしてくれた。
「みんな、めちゃカワイイ」
「次女ちゃんもかわいかったね。まあ、いつもだけどさ」
長女は帰り道にそう言った。
その日の夜には、理科のタブレット教材をどんどん進めて、8割くらいを一気に進めていた。
「ぼく、来週は毎日、学校いくぞ!」
次女はそう言って笑った。なにやら、元気をチャージできたようだ。
がんばってるね。
みんなみんながんばってる。長女も次女も。
保育園に通う双子も三男も。
調整しながら仕事に励む、夫も私も。
家族と過ごし、ときに距離をとり、また温度を感じるように傍にいながら。
明日を乗り切るパワーをためて、日々を乗り越えている。
とは言いながら。
来週にはまた、チャージが不足することもあるのかもしれない。
学校に行けないなあと言うのかもしれない。
でも、そしたらまた、いっしょに考えよう。
歩いてみて、立ち止まってみて、空を見上げたりなんかして、ありゃあ遠すぎるねえ、とため息をついてみよう。