先生謝らないで。もう、私も謝りません。|不登校・発達障がい姉妹育児日記
担当授業の開始も間際になってから、スマホがブーブーとその振動を私の身体に伝えてくる。
ギクリ。としながら、そうっと私はスマホの通知画面を確認する。
「〇〇保育園」
今日は保育園かあ。
電話に出れないうちにそれが切れてしまい、授業の合間をぬって折り返す。
双子弟が発熱により、お迎えにきてほしいという依頼だった。
急いで在宅仕事で姉妹と家にいる夫に電話をし、対応をお願いした。
在宅仕事はこういうときに頼りになる。ひとまずはほっとして、授業に戻っていった。
早く、私の仕事も在宅が復帰しないものだろうか。仕事、来年は続けられるんだろうか。
余計な考えを声に出さないように心の中にとどめながら授業で声を張り上げて、終わったら職員室で今週の伝票まとめ。ダッシュで経理に提出し、「昨日も言いましたが今日は早退します!」と言い終わるのが早いか、電車に飛び乗った。
小学校の個人面談で、たくさんたくさん、話したいことがあったから。
次女の担任からのメッセージ
次女は昨日、休み時間にかけっこで滑って転んで、「足が痛いよ~」と言って、今日は休んでいた。
「保健室ではなんにもなかったという見立てだったんですが。あれからずっとね…ケンケンしているの~、もう、ずっと(笑)帰れないかもっていうので、お迎えお願いできます?」
これは昨日、またまた授業の準備をしているときにかかってきた電話。
つい先日も、七五三撮影ではいたヒールのサンダルを気に入ってしまい履きまくった結果、足を痛めて3日休んだのは記憶に新しいからこそ、(またか…)という認識は、お互いの中にあった。それでこその(笑)が出てしまったのである。
8歳。ヒールデビューはむなしい結果に終わった。
#なんのはなしですか
#8歳にヒールは早い
#レントゲン異常なし
そのときにも、異常に気にしてずーっとケンケンしていた次女。そして3日もするとそれに疲れたのか、やがて普通に歩き出した。笑
ということで、これは私と担任の先生のもはや、笑い話になりつつあった。
今日も面談でさっそくその時の状況を話してくれた。
お友達が転んだ状況を説明してくれ、全身が草まみれだったこと。
昇降口までも歩くのつらいよ~というので、担任の先生(ベテランの女性の先生)がおんぶしてくれたこと。
「おんぶしてもらっちゃったんですか!もお~すいません!」
私がいうと
「次女ちゃんはもう~軽いわ~!あんなに給食おかわりしてるのにねえ!」と笑い飛ばしてくれた。
そして、先生が面談で伝えてくれたこと。
「困ったときに自分から相談していくこと」をアドバイスしていて、少しずつそれができてきていること。
勉強は休みも増えて少しついていくのが難しくなってきているけれど、できることから、本人の気持ちを尊重して進めていくこと。
クラスの中では発言の影響力が大きく、それを自分でも自覚しているので、ややしたたかな面があること。
「したたかさ」の話には、思わず笑ってしまった。しっかり、大人の顔色を見て行動しているのは次女らしい部分なのだが、さすが先生、しっかり見抜いている。
そして。親友のHちゃんと、クラスのCちゃんがバチクソに仲が悪いのだが(笑)、その間に入って「そういう言い方はしない方がいいよ」と言ってくれたり、喧嘩をいさめてくれているそうだ。
「がんばってる。すごくまじめなの。本当にね、がんばってますよ。でも、ちょっと難しいことも増えてきてるし、長女ちゃんのこともあるからね。お母さん、ふたりを同時に見守るの、難しいと思います。でも、大丈夫。前にも言ったけど、学校がすべてじゃないって、私は思うから」
先生は大きな瞳で、最初から最後までまっすぐに私を見据えてくれた。その与えてくれるものの大きさに、私は心がぎゅう、としながら、たまに先生の額や鼻に視線を移しながら、笑って話をした。
その瞳と見つめあっていたら、油断したら、泣いてしまいそうだったから。
次女のしたたかさが、先生やクラスの進行を妨げていることもきっとあるのだと思う。でも、それを先生は「大切な過程のひとつ」と捉えてくれている。
学校に行かないことも増えている次女について、先生は
「私の至らない点もあると思うので、そこは申し訳ありません」
と謝罪してくださった。
そんなこと本気で1ミリも思っていないので、食い気味に「そんなことないです!」と言った。
本当に。そんなことはないんです、先生。
実際、休みが増えてはいるものの、私はあんまり、心配もしていない。
いつでも次女は「学校次いつ行けるかな」と、その日を楽しみにしているから。毎日楽しそうにクラスメイトの話をしてくれるから。
とっても気遣い上手な長女の先生と
30分があっという間にすぎ、慌てて私は校舎の3階に駆け上がった。次女の次は長女の面談。
クラスの前につくと、まだ前の人が話しているので、教室の前で待機する。
次女のクラスでは作品たちを眺めていられたけれど。長女のクラスの廊下掲示物に、彼女の作品はひとつもない。長女の名前が忘れ去られたようなその壁を眺めるのはさすがに辛くて、私は小さな椅子に座って、順番を待った。
「お待たせしました!」
と、先生がドアを開けてくれる。
毎週、なんやかんやで長女を交えてお会いしているので、最近の様子については「あんな調子で毎日元気ではあります」という感じで終了。
ただ、本人を前にしては言えなかった、児童精神科での話を共有した。
本人は「学校は楽しい」「でも、行けない」と話していたこと。
服のタグや肌触りを異様に気にするので、感覚過敏の傾向もあると指摘されたこと。
「そうなんですね」「なるほど…」と、先生は私がしゃべるたびにメモをとってくれた。若く、とても健気な先生なのだ。
先日、児童精神科のあとに直接報告したとき、「スクールカウンセラーでのつながりもあるといいと言われたんです」と相談したら、「スクールカウンセラーは実はすぐに予約が埋まってしまって…」と言われていた。
マンモス小学校で、とても人数が多いのだ。
まあ焦ってもいないからひとまずはいいか……と半ばあきらめていた。が、今日の話の中で先生は
「ひとまず、スクールカウンセラーの先生、2月に予約を取りました!勝手にすいません、まずは仮ですので……」と、予約したメモを渡してくれて驚いた。
「ええ!すいません、ありがとうございます!」
私が驚いて言うと「勝手にごめんなさい」と先生は言った。
年中のひとり娘がいる先生は、時短で勤務されている。面談の約束していても、「娘が発熱で…申し訳ありません…」と、会えなくなることもある。
子どもの発熱発覚。そこから、休む連絡をし、自分の授業の代行を依頼する、誰になにを渡すのか言うのかを共有する。いつでも休めるように心がけていても、そこまでの過程がいかに大変かは痛いほどわかる。
だからこそ、思う。
先生。もう、謝らないでください。
「もっと、長女ちゃんが少しでも学校にこれるような環境はないか……そう考えていた半年でした」
「少しでも支援室に来られるようになれば、私の担任が外れてしまったあとにも、学校に来れる状況にはなれるかなって思うんです」
先生は身振り手振り、熱心に話をしてくれる。この情熱を感じる話し方が、私はとても好き。愛が伝わる。きっと子育てにも一生懸命なんだろう。
「この前、長女ちゃんが作ってくれた塗り絵。クラスに置いたら、3人塗ってくれて。みんな、長女ちゃん大丈夫かなって言っていたんですよ」
よかったらぜひ見せてあげてください。と、先生はオンラインツールで塗り絵を送ってくれた。
先日長女が書いて見せたものを、「塗り絵印刷して、クラスに置こうよ」と提案してくれたのだ。
絵が好きな長女が、好きなことを通じて、クラスとつながりをもっている。先生の細やかな対応に、改めて頭が下がる。
「私も、もっとたくさん勤務して時間があったら対応もできるんだと思うんですが、すいません。また、なにかあれば言ってくださいね」
たくさんたくさん、長女についてのヒアリングをしてくれ、大量のメモをしたファイルを手に、先生は言ってくれた。
先生。いつも感謝しています。十分すぎるくらい。
十分すぎるから、私はフリースクールとか、べつの学校を探すこともしていないくらい。
だからもう、謝らないで。
私も。
「学校に行かせることができずごめんなさい」とは、
もう、思わないから。
家でいつものように7人で
帰宅して、子守をしていた夫と交代。
余韻にひたる暇もなく、大急ぎでご飯の支度をする。
双子弟のついでに、保育園組も帰宅済み。
キッチンに侵入する三男をあしらいながら、冷凍のひき肉を解答してそぼろをつくる。
「ぼくもお手伝いする!」
正直、「忙しいから」と丁重にお断りする選択肢もあったが、そこは取り下げて「お願いします」と言った。
うれしそうに、長女はニンジンを丁寧に丁寧に切った。
ママよりも上手よ。素質ありますねえ。
彼女が切ったニンジンは、こころなしかひと味もふた味も甘い。
こんなもんか。と下ごしらえを終えて、双子弟以外を風呂に連れていく。
足が痛いと騒ぐ次女は「ケンケンじゃ降りられないよ~」と言い、それに付き合う時間もおしいのでさっさとおんぶで運ぶ。
「軽いわよ」と言っていた先生の言葉を思い出す。
次女はけっこう重くなったと感じていたけれど、まだまだってことなんだろう。
「私のこどもはふたり、成人して出ていっちゃったからね。いろんな時期があるよ、お母さん。でもね、大丈夫。どうにかなります」
教室を出るときにもらった先生の言葉を胸に、4人をざあざあと洗い流す。
お風呂に私も潜り込むと、お風呂の水が溢れそうになり、にわかに風呂が「キャー!!!」と、わいた。別の意味で。
「三男くんのお腹、いつへっこむの?」
「このままでいいんじゃない?かわいすぎるから」
姉妹の三男愛を聞き、その後の4人のお湯かけBATTLEには不参加の意を表明した。やることがまだ母にはあるんだぜ。
みんなの風呂上り後の準備をし、三男を拭き上げておむつを履かせている間に、さっきおんぶした次女はふつうに階段を登って2階のリビングにもどってきた。
「おい」
と言うと、
「あ。なんか、もどった!」
と次女は笑っていた。
こういうとこ。やはり次女はしたたかなのである。
ま。オンナはしたたかじゃないと、生きていけないよね。
双子弟は39度まで熱も上がり、カロナールを飲んでずっと横になっていた。普段は大騒ぎな彼も、そこまでになると、とってもしゅんとしておとなしい。ご飯の間も目を覚まさずに、ふとみんなの歯磨きタイムに目をさました。
「おにぎりつくったよ。食べる?」
私の言葉に、真っ赤なほっぺをゆらして「うん」と言って、私の膝で小さいおにぎりを食べた。明日は、病院に行こうね。なんて言いながら。
「ママ、しゅきだよ」
「おにぎりだいすき」
健気な息子の言葉は、おにぎりの塩気よりもしっかり母の心に効いてくる。
「ママも大好き」
「はやく元気になってあそぼうね」
5人が眠りに落ちるのを見届けながら、明日はどうなるんだろうと考える。
他の誰かにさっそくうつるかもしれないし、私にうつるかもしれないし、そしたら授業がお休みになるかもしれないし、いつも元気な夫もどうなるかはわからないし。
でも。それでもいい。
みんながそろって、この家でまだ、笑っているから。
いつもいつも、私の心での合言葉。
噛み締めながら、明日を祈って、私も眠ります。
*児童精神科での出会いの話*
*最初の個人面談の話*