跳ねる魚たち、波に押し流されて浜辺を打つ。弁膜は阻んでいる。彼らは外に出られない。ぴちぴちと打ち付ける、心臓の内側がこそばゆい。 掻き毟り、放校される。 昨年の、川底からの帰り道、浜辺の青い女に腕が付いていた。波が穏やかだった。 凪の群れ。 停泊を控えた船たちはうつくしい。感情の漲りだ。門戸らは受け入れる。 薄明に銀の液を垂らす鰯たちは、古代魚の存在意義に気づいてふいに、ひれを見る。 その横顔も、あまりに寂しい。
犬だか鳥だかわからない声が 窓の外で五つ数えている まだ明るくなる前の 蒼いを水を浸けたら成形された 薄く伸ばされた板を しゆしゆ刻むこえ 板は 家ゝやいくつかの眠る車の下に潜んで 夜から朝にかけて 底冷えの関係を結んでいるから 触れれば女の頬を纏うような粉がさわれる 朝の牛乳の冷たさに 期待外れで委ねられなかった安心が またいつかというaの居留守を 期待をしている 鈍くなった唇が ぬくもりを取り戻してゆくことは 冷夏のなかの 遊戯のひとつで 諸外国では 捕鯨船の基
少し空いた口から太陽に睡眠を送ると 窓の外から薄い日差しが差し込む 水中から空を見上げ船の汽笛を聴くと 水平線から櫂の波紋が流れ出す ある浜辺では少女が水をすくい取る また手のひらを沈めて、水を帰す ある歳の夜 さらわれた貝殻の音は 女の枕の下でさらさらと鳴っている 母は毛布の中にすんでいて こんなにも気持ちのよいものだから、と祈るひと 10年前の朝に君は生まれ それから陽は水の中で 微睡んでゆらゆら揺らぎ続けている
どんなに深く潜っても わたしは 手探りでもしてる間に だれかは わたしの 何も降ってくることはない 乾いた頭上だが 誰かの上には さぞ さぞ美しい音粒が降っていて、 抱擁する 音粒が されることは ただ楽しみゆく ゆぅかい … … もう知ってるよ と あばらの、涼しい隙間から 空を漕いで 薄い空気の中で 水滴を見つけて まぶたに置いたのだ “チチ、ヂ” あの音は 焚き火か コンロだね 手を引いた白黄緑の森 踊りにまかれる 踊らないひと ただふらす人は 大雨も控えさし
人間は汚いからと 空や風を思ってみれば それは遠く きれいだと思う だけどこの感じは それが 優しさや、やるせなさを 写しているからだな 人々のあいだにあるこころを 空へ風へ 見上げて探すこと、 陽が含んだ情、 とうに為されなかった抱擁 そのもの
船は揺れている 緩やかな波の下で 波は隠している 砂粒の黒い反射 深青の世界がある 暖色は丸く描かれる 小さな果物が その重みを 空気のなかに滲ませるような、 とかれた円 食後の幸福の麻酔で 暗く、失われた感傷を踏む こんな風に 忘却は春の船に 少し、酔わせる 皐月だ、十月が経った 流れてゆかない深い青 青の重さは黒色 波のない海は 喉を強く握り潰す炎を 覆い被し 沈める
夏布団で私を覆って 胸の上 重石が置かれている ここは 静かなんだと気づく 線を伝う音楽が止まったのだ いつからだ 溺れることなく浮かんだ言葉に意味をつけようとしている 散ってしまった火のようで 背丈より短くうつる影のようで…… 熱帯び夜はただ空洞 こんな日に誰が布団をかけたのか