中高生のための就職ガイダンス「苦楽しい仕事」
私が現役時、いつも生徒に言ってきたことは、「入社前に会社のすべてを知るのは不可能」ということです。
採用内定者には、希望や期待があり、一方で不安もあります。
特に、新卒で初めて社会に出る人は、会社や仕事に対する思いを、強く持っています。
しかし、世の中は複雑怪奇で、曖昧模糊な領域も決して少なくありません。
わが国には、「Yes or No」のデジタルではなく、「まあまあ・・・」のアナログ文化が、しっかり存在します。
事の良し悪しは別として、企業社会といえども、例外ではありません。
それによって人の和が保たれる、といった「善」の部分もあります。
自分の強い想いを判断基準にすると、「こんなはずではなかったのに・・・」となり、悩むことにもなりかねません。
自分の価値観は大切ですが、世の中、特に企業社会では、自分の考えと合わないことは日常茶飯です。
会社の上司は、一般論として、
①経験が豊富です。
②判断力や情報分析力にすぐれています。
③時間をかけないで、重要な判断ができる能力を持ちます。
当然、会社は上司を中心に活動することになり、上司の考えが主となります。
そんな会社では、どんな心がけを持って仕事をしたらいいのか、簡単ではありません。
社員がいやがっても、困難な仕事でも、無理矢理にでもやらせるのが会社であり仕事です。
意に沿わない仕事、いやな仕事でも全力を尽くすことが求められるのです。
仕事には量と質があり、量をこなすことで質が分かってくるものです。
仕事への思いが強い人ほど、早く質を得たがります。
質とは、存在感やボジションです。
やりたい仕事がしたい、目に見える成果を出したい、存在感のある仕事がしたいと、早くポジションを獲得したがります。
ポジションは、経験を積み重ねて、仕事を覚えて初めて分かるものです。
そこまで到達しないうちに、仕事をキチンと覚えないうちに、この仕事は自分に向いていないと、簡単に判断する若者が少なくありません。
この仕事やってみたけど、なかなか好きになれない、もっと自分に合う仕事があるんじゃないか・ ・となります。
でも、仕事がつまらない状態から抜け出せない人は、仕事を覚えないということが、原因の大部分を占めています。
仕事を覚えるとは、仕事を覚えることで自分も成長できることです。
ただ単に、この仕事ができるようになった、という事ではありません。
養老孟子さんは、毎日新聞で、こう言っています。
仕事とは、社会に必要性があって生じるもので、それをニーズという。
自分のために仕事が転がっている。
そんなことは論理的にもあるわけがない。
社会がまともに動くために、仕事が存在しているのです。
雇用環境の悪化しているときは、希望の仕事に就くことが難しく、望まない仕事への就職を余儀なくされることが多いのも事実です。
だからといって、いつまでも「やりたいこと探し」を続けていてはなりません。
与えられた中から選ばなければならない、といったときは、決断しなければなりません。
そのときは「仕方なしに選んだ仕事」でも、経験と実績が伴えば、いつかきっと「選んで良かった仕事」になります。
それには、与えられた役割をきちんと果たすことに徹し、組織人としての適性を確立する時間が必要なのです。
隣の芝生は緑豊かに見えるものですが、それに惑わされることなく、いかにして我が家の芝生を緑豊かにするか、それを考えて実行することが必要なのです。
自分の芝生は自分で手入れするしかないのです。
最後に遠藤周作さんの言葉を紹介します。
仕事は、苦しい、楽しい、苦楽しい(苦しいけど楽しい)の3つしかな
い。
このなかで一番長続きするのは「苦楽しい仕事」です。