今なら100%怒られる!?本物のライオン、虎、象、そして人間の大暴れ大行進!映画の限界を超えた幻のアニマルパニックホラー「猛獣大脱走」【ホラー映画を毎日観るナレーター】(709日目)「猛獣大脱走」
「猛獣大脱走」(1983)
フランコ•E•プロスペリ監督
◆あらすじ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最新コンピューターで動物を管理する巨大動物園で、動物たちの異常行動が頻発。獣医のバーナーは原因を探ろうとするが、その頃街ではネズミの大群がカップルを襲う事件が発生。そして動物園では、象によって電気系統が破壊され、動物たちが一斉に逃げ出し…。(Filmarksより引用)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『凶暴化した動物園の動物たちが檻や柵を破壊して大脱走!街中を我が物で闊歩し、人々を混沌の渦へと陥れる』というストーリー自体はやや単調ながら、本物の動物を用いた「これどうやって撮ってるんだ?」というぶっ飛びシーンのオンパレードなアニマルパニックホラーです。
もう兎にも角にも本物の猛獣や大型動物が柵を破壊したり、人間を襲ったりするシーンは今見ても出色の出来というか、「マジすぎるって…」と引いてしまうレベルです。本物の動物を用いているからこその『何が起こるか分からない』という独特の緊張感が見ている我々にもダイレクトに伝わってくるため、下手したらホラー映画よりも遥かにホラーかもしれません。めちゃくちゃ怖いし、子供にも見せたくないです。
一応今作の制作にあたり、パスクァーレ•マルチーノ氏とジャンカルロ•トリベルチ氏という2人の動物専門のトレーナーが在中していたそうですが、とはいえ本物の動物がすんなりと製作陣の思惑通りに動くことはないでしょうから、自然と撮影の方もかなりの時間を要したと思われます。
スタッフや出演者もそうですが、もちろん動物にも相当な疲労やストレスがかかるでしょうし、あくまで私の推測に過ぎませんが、今みたいに『この動物の撮影は〇時から◇時まで』みたいな細かいルールも無かったと思います。なもんで、動物保護の観点から見ても今同じ作品を同じ撮影環境で作ろうとした大炎上不可避となるのではないでしょうか。
動物だから雑に扱っていいとか、数が多い小動物は死んでもいいとか、そういったことは当然許されることではありません。しかし、この時代だからこそというか、「これが大丈夫な時代があったんだ」と思えるという意味でも相当貴重な映像作品なのではないでしょうか。
そんな今作の監督を務めたフランコ•E•プロスペリ氏は元々は動物等に関する研究をしており、映像業界とはまったく無縁の人生を送っていました。
プロスペリ氏は元々ローマ大学の研究所にて民俗学や動物行動学を専門とし、その後は魚類学を中心に研究していました。その後、1954年頃から自然に関するドキュメンタリー映像を制作するようになり、それが軒並み高評価。研究のみならず、新聞や雑誌にレポートが掲載され、数多くの著書も出版されました。
そしてこの頃に後にタッグを組むことになる映画監督兼ジャーナリストのグァルティエロ•ヤコペッティ氏と出会い、マンハントや牛の首切り祭りなど世界各地の奇妙な風習や因習を記録したドキュメンタリー映画「世界残酷物語(モンド•ケーン)」を共同で発表しました。
この作品はドキュメンタリー映画でありながら、カンヌ国際映画祭のイタリア代表作に選出されるなど海外でも大ヒットを記録し、モンド映画というジャンルを確立。その後も2人で数作のモンド映画を製作し、そして1984年に満を持してプロスペリ氏一人で監督•脚本を務めた記念すべき初長編映画が今作です。
※モンド映画とは
しかしそれ以降、同氏が映像業界と関わることはなくなり、アフリカに渡り民俗学等の研究に勤しんだそうです。ちなみに、同じくイタリア出身でB級のアクション映画やファンタジー映画を数多く手掛けたフランチェスコ•プロスペリ監督と情報が混同されていることが多いですが、もちろん別人です。
今作を手掛けたフランコ•E•プロスペリ監督は「世界残酷物語」(’62)や「さらばアフリカ」(’66)等のドキュメンタリー系の映画をヤコペッティ氏と共に手掛けたモンド映画の巨匠です。
そして、名前が似てるフランチェスコ•プロスペリ監督は40代から花開いた苦労人で、ミステリーやコメディ、アクションや名作のパロディまで何でもござれのスタンスで80年代まで活躍しました。ちなみにフランク•シャノン名義の作品も数作あります。
そもそもの情報も少なく私もごっちゃになってしまいそうなので、これから分からなくなったら上記の情報で判別してください。
現在アマゾンプライム、U-NEXTにて配信中です。
◇北ヨーロッパの某都市に存在する巨大動物園。ここは全てのセキュリティが最新鋭のコンピューターによって管理されていた。そんな折、街の至る所で動物たちが人々を襲う事件が発生。車内にいたカップルは夥しい数のドブネズミに食い殺され、盲目の作曲家は長年連れ添っていた愛犬に噛み殺された。そして動物園ももちろん例外ではなく、虎やライオン等の猛獣、さらには象やシロクマ等の大型動物までもが凶暴化し、檻や柵を次々と破壊して勢いそのままに街になだれ込んでいく。この動物園で獣医を務めているリップは動物たちを凶暴化させている原因が飲水にあることを突き止める。しかし事件の終息には時間を要し、さらにはこの水を飲んだ子供たちまでもが凶暴化し、事態はより混沌を極めてしまう…
というのが今作の大まかな流れです。
冒頭でも申し上げた通り、凶暴化した動物が人間を襲うシーンは全てが出色の出来です。基本的には本物の動物を使用しており、『動物のアップ』と『怯える人間のアップ』を交互に見せることで襲われているという臨場感や恐怖を演出しています。しかし当然それだけではリアリティが出ませんから、しっかりと狭い空間(電車内や屋内)に動物を放ち、それに怯えたり、息を潜める人々の様子等もカメラに収めています。
もちろん動物たちには訓練が施されているでしょうし、専属のトレーナーが在中しているとはいえ、自分の数メートル先に虎やらシロクマがいたら相当怖くて演技どころではないと思うんですけど、実際に出演された役者さんたちは当時どのような心境だったのでしょうか。「動物に襲われても私は被害を訴えません。全ては自己責任です」みたいな誓約書とか書かされるんですかね。
襲われているシーンも凄まじい迫力で、象が鼻で男性の首を絞めたり、足で踏み潰すシーンは相当有名ですが、個人的には最初の方にあった「夥しい数のドブネズミがカップルを食い殺す」というシーンが怖すぎました。清潔な撮影用のネズミとはいえ、尋常じゃない数のネズミが自分の身体の上を這ったり、口の中に入ってくるわけですからやっぱり演技云々の前に「イヤだ!」という気持ちが勝ってしまいそうなものですが、このシーンのカップル役のお二人は見事に演じきっていました。役者魂を感じられます。
また、空港を闊歩する象の群れ、電車に侵入する虎、街のメインストーリーを大行進する水牛の群れ、猛スピードの車をどこまでも追い続けるチーター等など、全てのシーンのパンチ力がえぐいです。一度見たらもう忘れられません。
何度も言うように映像自体は本当に素晴らしいんですけども、肝心のストーリーはややボリューム不足にも感じました。基本的には獣医のリップと記者のローラを軸に物語が展開しますが、2人とも主人公としてはほとんど機能しておらず、動物に襲われたり立ち向かう人たちの群像劇のようにも見えてしまいました。
あくまで私の個人的な感想ですが、どうしても映像のインパクトが先行してしまい、ともすれば『本物の動物使ってこんな映像撮ったよ!他にもこんな凄い映像もあるよ!あと大爆発もするし、カースタントだってやっちゃうもんね!』という感じの衝撃映像の羅列にも見えてしまいました。それでも十分に楽しめるんですけども、映画としては勿体ないといいますか、主人公らしい主人公がいないため物語に締まりがなく、『誰の何の話なのか』をもう少し明確にして欲しいなとも思いました。
クライマックスではリップが飲料水に含まれた薬品に動物凶暴化の原因があることを突き止めますが、時すでに遅し。その水を飲んだ子供たちまでもが凶暴化し、教師やローラの娘に襲いかかるというトンチキな展開は正直かなり好きだったんですけども、いよいよそのくだりが盛り上がるぞ!というところで終わってしまい、あとは「みんな無事でした」みたいなテロップで締めくくられており少々残念でした。
フランシス•スライブ(検索しても出てきませんでした)という方の『すべては現代の狂気のせいだ。そしていつも犠牲になるのは罪のない子供や動物たちだ』という言葉を作中で引用していることから、動物や子供たちの尊い命が犠牲になっている世界に対するアンチテーゼが今作のテーマなのだと思われますが、いまいち伝わりづらかったです。
どうやって撮影をしているのか、メイキング映像などを是非とも拝見したくなる凄い映像ばかりでした。ストーリー的にはシンプルなんですけども、「本物の動物を使ってこんな映画が作れるんだぞ!」という並々ならぬパッションがダイレクトに伝わってきました。アマゾンプライムでも見られますので、この凄さを体感したい方は是非ご覧になってみてください。
☆この度ホームページを開設しました!
もしよかったら覗いてやってください。
渋谷裕輝 公式HP↓