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キノコになって仲間と幸せに暮らすか…人間のまま地獄に墜ちるか…特撮ホラーの金字塔「マタンゴ」【ホラー映画を毎日観るナレーター】(635日目)

「マタンゴ」(1963)
本多猪四郎監督

◆あらすじ
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7人の若者を乗せたヨットが、嵐のため無人島に漂着した。その島を探索した結果、彼らより先に、一艘の難破船が漂着していたことが判明する。だが乗員の姿はどこにもなく、ただあたりは奇妙な形状のキノコが群生しているのみだった。やがて食料の残りが少なくなり、彼らは恐る恐るそのキノコを食し始める。そしてそのキノコを口にした者は、人間の姿を失い、奇怪なキノコ・マタンゴへと変身していくのだった……。(allcinema.netより引用)
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『ネオン輝く東京の街並みを病室から見下ろす一人の男。彼は自身が遭遇した恐ろしい体験をぽつりぽつりと語り始める…』

私はこんなにもセンスに溢れた始まり方をする映画を未だかつて見たことがありません。こだわり抜いた美しい映像に引き込まれ、『彼の身に何が起きたのか』を怖いけど知りたいという好奇心で胸がいっぱいになり、思わず呼吸をするのも忘れるくらいに見入ってしまいました。

監督には「ゴジラ」シリーズを筆頭に数々の特撮映画を手掛けた本多猪四郎氏

亥年生まれの四男だったことから“猪四郎”と名付けられたそうです。ちなみに読み方は“いのしろう”ではなく“いしろう”ですが、周りからは“いしさん”や“いのしろさん”と呼ばれて親しまれていたそうです。(本多猪四郎Wikipediaより引用)

そして特撮監督にはゴジラやウルトラマンの生みの親“日本特撮映画界の父”円谷英二氏

『特撮』という言葉を創ったのも同氏です。ちなみにゆでたまごが好物で、塩も水も無しに一度に26個食べたことがあるそうです。(円谷英二Wikipediaより引用)

そして脚本は特撮映画を中心に活躍されていた木村武氏(馬渕薫名義の時もあり)がそれぞれ務めており、当時の日本特撮界のトップクリエイター陣が集結しております。

元々は「S-Fマガジン」という雑誌の空想科学小説コンテストに入選した作品を映画化するという企画だったそうですが、該当作が無かったため、当時の編集者であった福島正実氏の提案によってウィリアム・H・ホジスンの海洋綺譚「夜の声」を原作•原案に選びました。福島氏自身が脚色を務め、ラストの展開についてはSF作家の星新一氏も意見を出したそうです。

興行的にはあまり振るわず、翌年の「宇宙大怪獣ドゴラ」の低迷もあり、その後、本格SF路線はゴジラ等の怪獣路線へと吸収されてしまいました。しかし作品としての評価は非常に高く、『世界の珍妙ホラー映画ベスト5』の第3位に選ばれるなど、海外でも人気が高いです。ちなみに同時上映は加山雄三さん主演の若大将シリーズ第4弾「ハワイの若大将」でした。

現在配信などは無いようで、私は例によって浜田山のTSUTAYAにてレンタルさせていただきました。(時代的なものもあり、セリフにキ◯ガイなどのワードが入るため今後も配信は難しいかもです)

英題は「ATTACK OF THE MUSHROOM PEOPLE」です。かっこいいですね。(Amazon.co.jpより引用)

◇ヨットに乗り合わせた男女7人は嵐に巻き込まれ、無人島に漂着する。霧に包まれ、カビと不気味なキノコに覆われた島を探索する一行は難破船を発見する。核実験による影響を調査しに来ていたこの船にはもう人っ子一人いなかったが、僅かながらの食料を発見して一安心の一同。しかしその船の日誌には「また船員が消えていく」や「キノコを食べてはいけない」などと記されており、また『マタンゴ』という未知のキノコを調べているようだった。島に来た直後は食料を集めながら協力して暮らしていた一同だったが、日が経つにつれて食料不足やいつ帰ることができるのかという不安からフラストレーションが溜まり、いがみ合うようになってしまう。

という濃密な内容ですが、ここからさらに盛り上がりを見せてくれます。

まさにこれを描いています。
(Matango(1963)-Trailer|Japanese Classic Horror Movieより引用)

物語の大筋自体は

『不気味な無人島に漂着した男女7人。食料不足から一人また一人と怪しいキノコに手を出してしまい、キノコ人間マタンゴへと姿を変えていく』

という非常にシンプルなものなんですけども、このキノコに手を出すまでも出してからも、人間ドラマが非常に濃厚なのでずっと見ていられます。

食料を強奪するのが一番優しそうな人だったり、気が触れて仲間をライフルで脅したり、女性陣に手を出そうとする者がいたり、しんどい状況の中でもなんとかリーダーシップを取ろうとする者がいたりと、その一つ一つの騒動や行動が異常なまでにリアルなんです。

(Matango(1963)-Trailer|Japanese Classic Horror Movieより引用)
(Matango(1963)-Trailer|Japanese Classic Horror Movieより引用)

この「なんだか雲行きが怪しくなってきたけど大丈夫かなぁ」と不安になってしまう流れが絶妙で、60年以上前の作品にも関わらず一切の古臭さを感じさせません。『色褪せない』という言葉はこういう時に使うものなのだと思います。

これだけでも十分面白いのに、この状況を『キノコ人間マタンゴ』がさらに掻き乱していきます。

マタンゴ成体(p-bandai.jpより引用)

『どこかの国が行った水爆実験の放射能を浴びたキノコを食べた人間の成れの果て』という設定があり、マタンゴを食べてしまった者は全身を徐々に胞子で覆われるとともに知性や理性が失われていき、成体(キノコ人間)になると人間としての自我は完全に失われます。

成体になるまではまだかろうじて知能や運動能力があるようで、人間を襲うために船に侵入したり、扉を開けることもできます。おそらくは個体数を増やすことを目的としているのか、人間を拉致してマタンゴの密集地帯まで拉致するなどの本能行動と見て取れる行動が多い印象です。

これはまだ動けるマタンゴです。
(Matango(1963)-Trailer|Japanese Classic Horror Movieより引用)

飢餓に耐え兼ねた仲間が次々とキノコを食してマタンゴに変貌を遂げる中、冒頭に登場した男•村井は唯一マタンゴを食べず、命からがらヨットで逃走し奇跡的に救助されます。

ですが村井の一連の話を信じる者など一人もおらず、精神異常者とみなされた村井は精神病院の鉄格子のついた部屋に収容されていたのです。

「戻ってきてキチガイにされるなら、自分もキノコを食べて恋人と島で暮らしたほうが幸せだった」

ネオン輝く平和な東京の街並みを眺める村井が鉄格子越しの医師たちの方を振り向くと村井の顔にはマタンゴが生え始めていた。

というあまりにも容赦ない終わり方が突き刺さりました。

『マタンゴになって仲間たちと島で暮らす』

『たとえ精神異常者扱いされても人間のまま生きる』

自由を失った村井にとってはどちらのほうが幸せだったのだろうかと考えさせられました。このラストシーンは刺さりました。もう素晴らしい以外の言葉が見つかりません。

(Matango(1963)-Trailer|Japanese Classic Horror Movieより引用)

『キノコ人間マタンゴは本当に実在し、この島に流れ着いた人々も皆最終的にはマタンゴになってその数を増やしていく』とストレートにその内容を捉えることもできますし、『全てはキノコによる幻覚だった』という見方もできるでしょう。見た人によって受け取り方も異なるでしょうし、そのどれもが正解なんだと思います。 

余談ですが

•劇中に登場したキノコは米粉を使用した和菓子で、成城凮月堂が毎朝蒸したてのものを撮影所まで届けていた

•病室から見えるネオンの景色は合成ではなくミニチュアでセットが組まれていた

など数々の裏話やエピソードがとても面白いので、本編が見られない方はWikipediaを読むだけでも相当楽しめると思います。

心と魂が揺さぶられる至極の傑作!最高でした!

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