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人間と動物の立ち場が逆転!?監督の思いがひしひしと伝わってくる長編の啓蒙活動PVみたいなパニックスリラー映画「アノニマス•アニマルズ 動物の惑星」【ホラー映画を毎日観るナレーター】(725日目)

「アノニマス•アニマルズ 動物の惑星」(2020)
バティスト•ルーブル監督

◆あらすじ
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鎖でつながれた全裸の男は何者かに連行され、トラックで運ばれた男女は畜舎に放たれる。ここは人間と動物の立場が完全に逆転した世界。従順な者、逃げようとする者を匿名の動物たちが支配する。動物たちは何を思い人間を支配し、人間は何を思い生きるのか…。(Filmarksより引用)
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『森の中を逃げ惑う人々。それを追うのは動物たち。動物が人間を支配するこの世界で人間たちは何を思うのか…』という、“動物愛護”や“命の尊さ”を我々にこれでもかと訴えかけてくる、作り手のメッセージ激強のアニマルスリラー映画です。

人間と動物の立ち場が逆転した世界を舞台に、人間が犬に飼われたり、森の中で鹿に追われたり、人々が牛舎で飼育されて屠殺されたりと、動物を粗暴かつ脅威的に描くことで

『普段動物たちにとってお前ら人間はこんな風に見えているんだぞ』

『お前ら人間は罪のない動物たちに対して毎日こんなことをしているんだ!』

というメッセージを子どもたちでも分かるように描いているのが特徴的でした。

人間を拾う黒犬(YouTube Anonymous Animals Films ANONYMOUS ANIMALS - Trailer 4Kより引用)

正直なところ、この“命の尊さ”というテーマは非常にセンシティブかつ常に我々人類が向き合っていかなければならない普遍の議題だと思われます。なもんでおそらくこの映画はそういった啓蒙活動のPVを誰が見ても分かるようにある程度のエンタメとして昇華したものなのかもしれません。

考えさせられる内容ではあるものの、流石に分かりやす過ぎるというか、そのまんまを描いているので大人が見ると多少物足りないかもしれません。教育の一環として、お子様やお孫さんなんかと一緒に見るというパターンも一つありだと思います。バチボコにテンションが下がることはお請け合いします。

これだけ見ると実写版「BEASTARS」に見えなくもないですね。ルイっぽいです。(YouTube Anonymous Animals Films ANONYMOUS ANIMALS - Trailer 4Kより引用)

そんなメッセージつよつよな今作の監督•脚本•編集を担当したバティスト•ルーブル氏に関しては中々に情報が少なく、今作が初長編映画であり、シッチェス•カタロニア国際映画祭やスクリーム•フェスト•ホラー映画祭などの映画祭にも出品されていることぐらいしか分かりませんでした。

一切セリフが無いという挑戦的な姿勢や先述したようなテーマ自体は非常に面白いんですけども、主な3つの時系列の話を何度も何度もぶつ切りで見せる構成が効果的とは言えず、且つ非常にややこしかったです。さらにそこにカメラワークの悪さも加わったことで評価が今ひとつ伸びなかったように思います。

現在アマゾンプライム、U-NEXTにて配信中です。

Anonymous Animals(匿名の動物たち)というタイトルも中々に考えさせられます。(Filmarksより引用)

◇深い霧に包まれた森を歩く老人。彼は足元の口から血を流しているキツネの剥製をじっと見つめる。

所変わって、人間と動物の立ち場が入れ替わった世界。鎖で木に繋がれた傷だらけの男は黒い犬に拾われ、車に乗せられる。一方、森の中を逃げ惑う男女は鹿たちに捕らえられ、馬が運転する車で何処かへと運ばれていく。彼らを待ち受ける運命とは…

というのが今作の導入となります。

この冒頭の老人とキツネの剥製のシーンが以降作中で触れられることはないんですけども、もしかしたらこれ以降のお話(人間と動物の立ち場が入れ替わる)はキツネを憐れむ老人または人間の私利私欲で剥製にされてしまったキツネが思い描いた空想、妄想のお話なのかもしれません。

口から流れる血は人間に一矢報いたいというキツネの願望による幻ともとれますね。(YouTube Anonymous Animals Films ANONYMOUS ANIMALS - Trailer 4Kより引用)

先述しましたが、今作にはセリフが一切ありません。環境音以外だと動物たちの鳴き声、人間の悲鳴や吐息などしかなく、動物たちが何を考えているか等も分かりません。

セリフや登場人物の心情は我々視聴者に想像させる余白としてあえて描かず、それと同時に我々人間が動物の命を奪う時、動物たちは人間が何を考えているのかなど微塵も分からないですし、我々人間も動物たちが死の間際に何を思うかを知るすべはありません。

そのため『お互いに理解出来ないんだから描きようがないでしょ?各々で想像してください』というのが監督の一つのアンサーなのでしょう。

牛舎から逃げ出した女性を馬が庇ったと思いきやその後すぐ殺したり、黒犬が人間の世話を甲斐甲斐しく焼くと思ったらその後人間同士で殴り合いをさせたりと、見ていて「なんでそんなことすんだよ!」と思うようなことを我々は普段動物に対してやっているのかもしれません。

牛舎から逃げ出す女性(YouTube Anonymous Animals Films ANONYMOUS ANIMALS - Trailer 4Kより引用)

今作は主に『黒犬に拾われた人間パート』、『牛舎に集められた人々パート』、『森に佇む鹿パート』の3つで構成されています。そしてこの3つの時系列がおそらく異なるっぽいんですけど、正直それがあまり効果的とは思えなかったです。

私がその本質というか意図を汲み取れていないだけだと思うんですけど、それぞれのパートが特に切りが良いわけでもないのに頻繁に別のパートに切り替わるので見ていて非常にストレスでした。あと臨場感を出したいからだと思われますがカメラの手ブレがすごいです。これも少々嫌でした。

この辺りの構成なんかをすっきりさせるだけで大分見やすくなる気がします。

闘犬ならぬ闘人で盛り上がる動物たち(YouTube Anonymous Animals Films ANONYMOUS ANIMALS - Trailer 4Kより引用)

上記の画像を見ていただけると分かると思うんですけど、動物たちはただ被り物をしているだけなのであまり動物っぽさは感じられませんでした。クオリティが低いわけではないんですけど、手も普通に人間ですし、詰めが甘いと言われても仕方がないかもしれません。

このサメ兵士とどっこいどっこいかもしれません。「コマンドーシャーク 地獄の殺人サメ部隊」(’18)より(Metroshia Post Apocalyptic Command Shark-Official Trailerより引用)

•犬に飼われている人間同士が闘わされ、それを見ている動物たちがどっちが勝つかを賭ける“闘犬ならぬ闘人”

•牛舎のようなところに集められた人々が牛によって屠殺される

•人間を輸送するのが馬

•猟銃を持った鹿が森の中を逃げる人間を追う

といった感じに皮肉めいた風刺画や文化の違いを表現した絵を映像化した感じにも見えました。基本的にはこういった事象をゆっくりじっくり描いて組み合わせているので、話が進展するみたいなことはないです。なもんで悪く言えば内容は薄いですし、シンプルに引き延ばしているように見えました。

動物たちが食べている肉はもしかしたら…(YouTube Anonymous Animals Films ANONYMOUS ANIMALS - Trailer 4Kより引用)

クライマックスは『闘人に参加させられていた人間が脱走し、それを猟銃を持った鹿が追う』というものなんですけど、このシーンの面白いのが、途中までは人間が森の中を逃げて、その後ろから猟銃を持った鹿が追いかけています。

しかし突如として、“逃げるのが鹿”で“追うのが人間”になります。そして人間に撃たれて鹿が倒れるというところで物語は幕を閉じます。

おそらくは『今までの話は我々人間が普段動物にしていることを立ち場を逆転して描いたんだよ』というのを分からせるものだと思いますが、やっぱりちょっと分かり易いというか、そのまま過ぎると思います。もうちょっと映画として落とし込んでも良かったんじゃないかなと思いました。

人々が集められる牛舎(YouTube Anonymous Animals Films ANONYMOUS ANIMALS - Trailer 4Kより引用)

藤子・F・不二雄先生の「ミノタウロスの皿」という漫画がわりと近しいように思いました。牛型の宇宙人が人を家畜として飼っている星に宇宙飛行士が漂着するというお話なんですけども、文化や倫理、価値観、そして我々人類に対する痛烈な皮肉が込められており、大人向けな内容なんですけども非常に面白いです。しかもこの漫画が発表されたのがドラえもんよりも前の1969年というのがこれまた凄いです。

漫画がお好きな方は「ミノタウロスの皿」、映画の方が好きかなという方は今作で、そういった命の尊さや価値観や文化の違いを学ぶのがいいかもしれません。娯楽映画にする気はさらさらないのでしょうし、面白いとか面白くないとかそういった映画ではないです。自分の想像力を養うとかお勉強として見るのがいいかもです。

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渋谷裕輝 公式HP↓


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