#30 ジブリ&新海作品の違いから読み解く、しあわせと文化の関係 【文化の日企画】
イタリア人の友人が自宅に遊びにきた時、ジブリ作品も新海誠監督作品も両方好きな彼にいきなり、「ジブリと新海作品の魅力の決定的な違いって何?」と聞かれました。その質問に答える中で、「しあわせ」の感覚と文化は思っている以上に関係が深いと気づきました。
メンバー2人が実際に対話した記録を記事として毎週水曜日に投稿、導入部分は2人によるトークでお届けします。再生ボタンを押して放送をお聴きいただけると光栄です✨
〜 以下の記事は、上の stand.fm 放送の続きです 〜
生まれて初めての、カルチャーショック
日曜日は夕食がない⁈
今日のテーマは「文化の違い」ですが、美織さんが最初に文化の違いを痛感したのって、いつどんな内容でしたか? 最初にお互い文化の違いの「原体験」を話してから、話を紐解いていきましょうよ。
そうですね。私のカルチャーショック原体験は、高校2年生の時にオーストラリアへ1ヶ月間行った時のことですかね。ホストファミリーのみなさんが信仰していた宗派のキリスト教で断食の日があるようで、ちょうど着いた日が断食の日だったんです。私にはパンだけ出してくれたのですが、みなさんは食べていませんでした。昨年スイスに滞在していた時も、夕食にヨーグルトが出てきたことがあり、びっくりしました。私にとってのカルチャーショックは、食べ物と結びついていますね。
なるほど〜僕の原体験は、大学院1年生の夏にカナダへ1ヶ月間語学研修に行った時のことですね……僕もホームステイしたのですが、空港では「白人夫婦が車で迎えに来てくれる」と思い込んでいました。
実際に僕の名前を書いた札を持って来てくれたのは、ドミニカ共和国からの移民の黒人の方でした。ご主人はすでに亡くなっていて息子さんと二人暮らしで、車も持っておらず、友人の車で来たと話してくれました。自分が偏見を持っていたことが分かった瞬間でしたね。
違う考えは変えさせるべき⁈
食生活と宗教が結びついた私の経験も、人種と関係のある透さんの経験も、実際に体験して初めて肌で感じることのできるカルチャーショックですよね。そのホストマザーの方は、どんな方だったんですか?
学生をホームステイで受け入れて得られる収入と、教会の仕事との二つで生計を立てておられる方でした。とはいってもこちらも大人なので、一方的にキリスト教のことを説かれることはなく、心地よく過ごせましたよ。でもその後、多くの日本人とは「決定的に違う!」と感じる出来事があったんです。
透さんの経験談の本丸がそこにありそうですね。何があったんですか??
やはり多少宗教の話になって、日本では本来違う宗教である神道と仏教が伝統的に共存していること、神道の神様は唯一神ではなく八百万の神で、「異なる考え方を相互尊重する」のが日本の考え方ですと説明しました。日本では、学校教育でも、「人によって好みや考え方は違うから、お互いに尊重し合いましょう」って教わりますよね?
そうですね。その考え方がしっくり来ます。その部分でホストマザーは違う意見をお持ちだったんですか?
そうだったんです。「何かを信じているなら、異なる考えを持つ人に出会った時、その人を説得して考えを変えさせるのが、本当に何かを信じるということだ」と言われたんです。「違う相手を認めることは、信じるものに対して誠実ではない」という発想が根本にあるようです。この発想を推し進めると、世界史で繰り返された「宗教戦争」につながりますよね、きっと……
なるほど……私は、日本的な発想は、「不誠実であるかもしれないとしても、平和を保てる考え方」だと思います。考え方の違う相手を説得して考えを変えさせるというのは、その相手の幸せを願っているというよりも、「信じている対象に誠実であるため」とか「信仰とはそういうものだから」といったような、なんというか「人ではないもの」に関心が向いている気がします。
僕もそう感じています。でも、彼らにそう迫られた時に、「違う考え方も全部尊重するのが日本文化なんですよ」と言うだけでは、何というかバカにされてしまうような雰囲気がありました。角を立てず、感情的にならず事実と論理で反論したいところです。
「感情的にならず事実と論理で」って、透さんらしいフレーズですね。具体的にどういった説得ができるんでしょう?
日本の歴史は、初代天皇である神武天皇の即位から今年で2684年になり、キリスト教より少し長い歴史があるとされています。日本の伝統宗教である神道の神様は「八百万の神」で、キリスト教は唯一神です。一方、キリスト教成立以前の欧州を見ると、そこにはギリシャ・ローマ神話の世界があり、こちらは紀元前15世紀頃まで遡れます。
ギリシャ・ローマ神話は日本神話と同じく多神教の思想ですね。この話をして、キリスト教成立以前には、欧州にも「万物に神が宿る」発想はありました、と説明することにしています。ちょうどジブリ作品の『千と千尋の神隠し』のように、「神々で賑わっていた」のは日本だけではないんです。
タイトルにあったジブリ作品の登場ですね! イタリアの友人も、その例えで説明されると、一概に「キリスト教だけが正しい」とは言いづらくなりますね。
ミオリとトオルの海外経験を振り返ってみる
少し話が横道にそれますが、美織さんの時代には、高校生が1ヶ月海外へ行くというのはもう一般的だったんですね……とても羨ましいです。僕の頃はかなり違いましたよ。
海外へ行く、という行動は、時代や経済の影響を大きく受けますもんね。どんな感じだったんですか?
少しだけ現代史を復習すると、沖縄が日本に返還されたのは1972年で、僕の生まれた前年です。さらに、海外旅行が自由化されたのは1964年4月1日なので、今年でまだ60年しか経っていません。
僕が大学生の頃も、友人で海外旅行をしたことがある人は、ほんの一部でした。「海外に一度も行ったことがない」「外国人と一度も話をしたことがない」状態で英語教師になるのが珍しくはない時代でした。
今はこうやって普通に二人で活動していますが、私と透さんの年齢差である25年の間には、いろんなことがあったんですね。
マジックフレーズで済ませたくない!
「人それぞれ」のミオリ、「共通点」のトオル
ところで、透さんは比較的どんなことでも、「共通点を見つけていきたい」という発想ですよね。私はどちらかというと、「何事も人それぞれ」と考えることが多いように思います。同じ日本文化の中で生きていても、これだけ違っているので、「文化の違い」って本当に難しいですよね。
美織さんと僕は、影響を受けた「好きなもの」の性質が違うんだと思いますよ。例えば音楽だと、美織さんは「なにわ男子」のような今大人気のアーティストを好きになることが多いですよね。その他、美織さんの好きなイベントや休日の過ごし方も、比較的「世間一般で人気があるもの」と一致してるんじゃないですか?
一方、僕が一番好きなミュージシャンはネルソン・コールさんというのですが、学生時代からもう30年以上聴いていて、知っている人には一人!しか出会ったことがありません。その人とはそれだけの理由で親友になりました。少数派に免じて、動画引用させてくださいね。宣伝しないと(笑)
なるほど。おもしろい視点ですね!同じ文化の中でも、自分の好みが「世間一般で知名度が高い」私は、むしろ「自分にしかないもの」を求めて「人それぞれ」思考になりがちな一方で、自分の好みが「なかなか共有できない」透さんは、逆に「共通点を見つけたい」思考になるのかもしれませんね。いうならば、「ないものねだり」でしょうか?
そんな気がしています。オンラインで対話する時に美織さんがたまに使っている「なにわ男子」マグカップ、いいなあ、僕もそんなファングッズが欲しいな……と思っていました(笑)
閑話休題、病欠に有給を使うか否か
ところで、冒頭のスタエフで話題に出ましたが、ヨーロッパで仕事をしている場合は、体調不良で休む場合は有給休暇を使わなくていいんですよね。日本では有給を使って病欠を取るので、「体調不良で休みすぎると、夏休みが取れなくなる」という状態になってしまいます。これを「文化の違いだから、仕方がない」というのは、なんだか違う気がしますね。
人間の健康が何より大切なのは、文化に関わらず世界共通のはずです。それでも日本で、「欧州では病欠は有給とは別扱いだから、日本もそうする方がいい」と提案すると、「文化が違うのだから、仕方がない」と言われてしまいますね……
第二次世界大戦後の復興の流れの中で、何より経済発展を目指す中、国や企業が都合よく作り上げてきた価値観のように思います。僕は、病欠を有給で取ることを「日本文化」とは思いたくないですね。
特に、精神的な不調は身体がどうにか動いてしまうことも多く、休まずに働き続けた結果、より悪化してしまうことも多いと言われていますね。なんでも「文化の違いだから仕方がない」という「マジックフレーズ」で済ませてしまうのは幸せには繋がらないと思います。
文化の違いと「人間の弱さを認める」ことの関係
個人に委ねる日本と、制度で保障する欧米
少し重たい話になりますが、欧米では警察官や医師が殺人現場などの悲惨な事件の対応をした後は、一定期間強制的に休暇が与えられ、精神科医やカウンセラーとの面談を受けることになっているという話を聞きました。日本ではそういうことはあるのでしょうか。
警察の話は分かりませんが、鉄道に関してはそれぞれの会社によるようです。こんな記事を見つけました。
「自分が運転する列車で人を轢いてしまった」という自責の念からなかなか逃れられない運転手も多く、自分が乗務していた列車で人身事故を経験した運転手が作る自助グループが非公式に存在するようです。
自助グループ……つまり、会社の制度で休暇や精神面の治療が保障されるのではなく、「自分たちでどうにかすべき」という発想になっているってことですね。欧米のように「制度で保障されている」文化との違いは、どこから生まれてくるのでしょうか?
キリスト教との関連
話が一番最初に戻って、僕はやはり宗教観ではないかと思います。キリスト教では、人は生まれながらにして「罪深い存在」であり、祈ることで神から「赦され」そして「救済される」という考え方があるわけですよね。極限状態に陥った時に、「人間は弱い存在だ」と認めることが、宗教的文化的に許容されているのだと思います。むしろ、「本当の強さは、弱さを認められること」という文化があるように思います。
日本だと、「私は大丈夫です!」と言った人が評価される傾向があるので、そうすると後に続く人は、本当は大丈夫でなくても、「私も大丈夫です!」って言わなくてはいけない雰囲気にはなりますね……「空気を読む」っていう文化も日本ならではですね。
僕はどの国より日本が大好きですが、どうしようもない時に人間の弱さを素直に認めて、それを周囲が個人的にも制度的にもサポートする欧米の文化は、見習うべきだと思っています。
さっきも私は「人それぞれ」という価値観が強いと言ったように、「私は私」という感覚が強かったですが、その考え方で社会を見ると「文化が違うから仕方がない」と目を背けかねないですね。違うからこそ、おもしろい部分も沢山ありますし、参考にすべき点も沢山あります。
そうですね……「文化」というと、食べ物やスポーツなど明るい面だけではないですね。これからも日本の幸福度を上げるべく、考えていきましょうね。
タイトル再訪!
ところで、タイトルで出てきたうち、ジブリ作品は出てきましたが、新海監督作品の話が出ませんでしたよ! どういう関連だったんですか?
そうでした。ジブリ作品は、『千と千尋の神隠し』のような日本的な作品も含めて、「文化的な前提」がストーリーやセリフで説明されていて、観る人の出身文化を選ばない、インターナショナルな作品であることが多いと思います。
対して、新海監督作品は、日本人が幅広く共有している文化的前提に基づいて作品作りをしているように思う、とイタリア人の友人には説明しました。言い換えれば、日本人は新海監督作品を、欧米人の「倍楽しめる」のだと思います。新海監督の大ファンとして、倍楽しめる日本人でよかったです。
「 今ここで、しあわせを繋ぐ意味がある」〜 しあわせ探求庁でした✨
また来週水曜日にお会いしましょう!
(2024年11月6日)