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シバ先生 taught me 司馬遷|「悟浄出立」万城目学(読書日記)

中国の歴史や古典が好きだ。魂がふるえるくらい好きだ。
万城目学が描いた「悟浄出立」は、中国古典に登場する主役級の周囲にいる誰かの目線で語られる物語。

5つの短編が収録されている。
「悟浄出立」…西遊記より、沙悟浄
「趙雲西航」…三国志より、趙雲
「虞姫寂静」…史記・項羽本紀(四面楚歌)より、虞美人
「法家孤噴」…史記・刺客列伝より、荊軻と偶然同じ名前を持つ京科という男
「父司馬遷」…史記を編纂した司馬遷の娘、榮

この主人公たちを記憶の中にお持ちの方には、ぜひ読んでほしい。
万城目さんの想像力が生んだフィクションなのだけど、強烈に心をかき乱される話ばかり。

特に、私が最も尊敬している歴史上の人物「司馬遷」と彼の生んだ「史記」が絡む新ストーリーには何度読んでも目頭を熱くさせられる。もちろん心も。
古典オタクは永遠に原作者からの供給を得られないのがツライよ😣と思っていた10代であったけど、今の私はこうやって新たな解釈(いわば二次創作)を読んで「分かる…」とか「天才すぎる…」とか思いながら涙ぐんでいる。エナジーを燃やせて幸せです。

史記との出会いは、高校の漢文。
この本にも登場する「四面楚歌を聞いた項羽の悲しみ」や「秦王の暗殺に向かう荊軻の勇気と正義感」は授業で習った。
歴史書って年表みたいなものだと思っていたけれど、司馬遷の描くドラマチックで胸を打つ歴史スペクタクルに惹き込まれて、授業中に泣いた。

当時クラスメイトだったタンポポに、
「私は大変興奮している。冷血かつ無欠な項羽の弱っている姿は見たくないとか言っておきながらも、実はずっと見たかったような気がする。項羽が虞を愛する真の心は伝わったのでただ愛により救われることを祈っているのだけど、この雲行きでは私の祈りは届かないだろう。切ない。つらい。たまらない。」
みたいな旨の手紙を投げた。
タンポポからは、
「また情緒持っていかれてんのか。この前は山月記でも泣いてたやん(笑)」
と返事が来た。

力は山を抜き 気は世を蓋う
時 利あらず 騅逝かず
騅の逝かざる いかんすべき
虞や虞や なんじをいかんせん

司馬遷・史記より

敵に囲まれた項羽が、自分の死期を悟り詠んだ歌。
なんだか泣きたくなるでしょう。
司馬遷の史記には虞美人についての記述がほとんど無いのだけど、万城目さんは虞美人を主人公にした。切り取られた話の中の虞美人は激しくて生命力に満ちていて幸せそうだった。
項羽の抱える孤独や、彼の不器用な愛情を注がれる虞の日々が伝わってくる。
万城目さんありがとう。項羽と虞美人、推しカプフォーエバー。

史記を原作のまますべて読んだことはないけれど、この本は史記の内容を網羅して教えてくれるのでオススメです。悟浄出立と合わせて。

司馬遷は本当に凄い。悟浄出立に収録されている「父司馬遷」にも見てとれるものがあるし、後世に書かれた書物にも、現代のYouTubeにもその偉大さは語り継がれている。
だって殷の時代より前に存在したと言われている伝説の夏王朝の成立よりもさらに前の時代から、自分の生きている漢王朝までの歴史をまとめあげるっていうのは、当時の人からしたらこの世のすべてを書物にした人物ってことじゃん。
司馬遷のまとめた史記は130篇あるって言われているけれど、そんなに多くの記録をしたのにも関わらず自分についてはあまり書き残していなくて、「自分のことはいいから史記を読んでくれ。それで十分だ」って言っているよう。
史記がスゴすぎるから、あなたがいかに強い覚悟を持っていたのか分かってしまうよ…。

そんな偉大な人物を教えてくれた高校の国語の先生は「シバ」先生といって、一部の生徒はシバ先生を略して「シバセン」と呼んでいた。
でもそれって司馬遷の名を気安く呼んでいるようで気が引けるし、シバ先生にも失礼だろ!って思って、私は「シバちゃん」って呼んでいた。どちらにせよ失礼だった〜〜。心からごめんなさい。
センター試験の点数は笑っちゃうくらい悪かったけど、シバちゃんの授業は今もばっちり覚えていますよ✌️
多大な影響を受けてますよ。

シバちゃんは2年間担任をしてくださり、卒業まで見届けてくれた。
いい先生に出会えて幸運だったな。お元気だといいな。

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