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変な整骨院で、生産性が爆増した話

ある日曜日。妻とミスタードーナツを食べ、その後ラーメンを食べてからカフェチェーンでのんびりしていた。

時刻は午後3時。妻はこれから買い物に行くという。麻雀でもしにいこうかなと思ったが、時間が微妙だ。なんとなく体が疲れていたので、マッサージに行こうと近くのお店を検索する。しかし、良さそうなお店はどこも予約でいっぱいで、少なくとも1時間は待つしかなさそうである。

そこで、妻が言う。「整骨院」なら空いてるよ。

しかも、40分コース8000円が割引で1500円になるクーポンがあるとのこと。あまりの安さに怪しさすら感じたが、他に候補もないので向かうことにした。

体育会系整骨院

その整骨院は、ほどほどの大きさのショッピングモールの1階、道路に面した部分にあった。入り口には「予約なしで入れます!」「ただいまの待ち時間0分!」と、これまた胡散臭そうな宣伝文句。中を覗くと仕切りやカーテンはなく、かなり開けっぴろげな感じだ。10脚程度の細長い椅子に5名程度のお客さんが寝ていて、わりと若めのスタッフたちが施術をしている。

※イメージ

私が入店すると、全員が「こんちわーす!」と通った声を揃える。新宿かどこかにあった、そういうコンセプトの居酒屋を思い出す。なんだこの体育会な雰囲気は。

少し不安になりながらも、受け取った問診票に必要事項を記載する。マッサージ店ではなく整骨院なので、ここで行われるのは痛みや怪我の「治療」だ。問診票にも、「いつ頃から、何が原因で痛みが生じていますか?」など、怪我や病気があるという前提の項目がある。

単純に肩と腰が張っているくらいのものなんだけれどなぁ。と、やはり少し待ってでもマッサージ店にいくべきだったかと思っていると、名前を呼ばれる。

目の前で横たわっている5〜6人の中に放り込まれるのかと思いきや、私はひとり、レジカウンター奥のスペースへ。問診票を書いている時、このスペースは何に使うものなんだろうとぼんやり思っていたが、ここにもベッドが4台ほど置いてあった。

歪みに歪んだ、グチャグチャな身体

1番奥のベッドに通され、カウンセリングからスタート。面倒だなぁと思いつつ、かなり安くしてくれているんだから、これくらい付き合わねばと調子を合わせて返答する。

まず、「全身カチコチですねー」と、恐らく20代と思われる若めの先生。マッサージに行くと必ず言われるのだが、初めてのお客さんには絶対に言うという業界のルールでもあるのだろうか。「仕事を頑張っている証拠です」と暗に伝えることでご機嫌を取ろうとしているように感じて、ついぶっきらぼうになる私は性格が悪い。

その後、また先生とのお話へ。全身の筋肉が凝り固まっている原因が何かわかりますか?と問われ、姿勢ですか?」と、猫背の自覚があった私は答える。「おお、正解です!すごいですね」と先生。

ほぉ、なかなか上手いじゃないか。私は少し機嫌を良くした。

ここで、写真を撮られる。ビフォーアフターで比較するためなので、見栄を張っても仕方ない、むしろ意味がなくなってしまうのは理解しつつも、無意識に背筋を伸ばしてしまう。撮影された写真のイメージがこちら。

絵も酷いが、姿勢も酷い。

背筋をピンとしたつもりだったが、かなり変な姿勢だ。先生によると、骨盤が後ろに倒れ、顔と首が体のラインよりかなり前に来てしまっているらしい。うん、かなり変だ。

その後は、いよいよ施術開始。まずは温かい板のようなものを背中全体に乗せられ、身体を温める。入り口の前の開けっぴろげな空間では多くのお客さんがベッドの上で横たわっていたので、お昼寝の時間でもとっているのだろうかと不思議に思ったが、これのことだった。

サウナじゃないけど、ととのう

そしていよいよ、「手技」と呼ばれる指圧に入る。言葉の響きに脳内でニヤニヤしていた私だが、マッサージ店と変わらない、いや、それ以上のちょうど良さと気持ちよさを兼ね備えたテクニックで、かなり疲れが取れた。1500円でこれなら、すごくコスパが良い。ありがとうございました、と言って靴を履こうとすると、先生に止められる。

まだ、全身矯正が残っていますよ。

まだ何かやってくれるのか、と思うと同時に、「矯正」と聞いてここが整骨院であったことを思い出した。ストレッチ的なことをやるのだろう。

まず、肩周りや下半身の可動域を確認する。骨盤をはじめ、全身の色々なところが歪んでいるという私は、どうやら正常な状態と比較して肩甲骨や股関節の可動域が狭いらしい。

本来なら、肩を上げようとすると、耳の後ろ側にスッと上がるらしいのだが、特に右腕は2時の方向で一度止まり、グググという感じで耳の前あたりにやっとのことで到着する。加えて、仰向けになった時、通常つま先は真上を向くらしいのだが、自分の両足首を見ると、見事に逆ハの字のような感じでだらしなく外側に開いている。

そんな感じで、あなたの体は結構やばいですよ、ということを解説と実演を交えながら丁寧にインプットされ続けた結果、「これって初見のお客さんへの営業トークではないのでは?」と思い始めたころ、それは始まった。

はい、いきますよー。
ボキボキボキボキ。

YouTubeなどでよく見る、首や腰を捻って骨をボキボキと鳴らすあれだ。まさかこんなところで、あれを体験するとは思っていなかった。

最初は、両手を首の後ろで組んだ状態で、後ろに思い切り引っ張られるというやつ。

次に、首を左右にクイっと捻り、ボキボキボキと音が出るやつ。変に力が入って抵抗してしまうと危ない、と本能が察したので、可能な限り脱力する。ちなみに、骨が鳴っているのではなく、関節の歪みによって溜まった気泡が音を立ているらしい。私も良くやってしまう「指ポキ」も同じ原理。これをやりすぎると、関節が肥大して指が太くなるとか。

最後に、下半身。仰向けの状態で右足を持ち上げ左半身の横に捻るストレッチのような姿勢から、ボキボキボキ。反対も同様にボキボキボキ。骨盤が歪んでつま先が開いた状態になっていると、太ももの外側に負荷がかかるらしい。少し指で押されただけで激痛だ。ところが、再び足を伸ばすと、先ほどはだらしなく外側に向いていたつま先が、ピンと真上に伸びている。え、すごい。

ここで10分間の全身矯正が終了。ドーナツを食べ、ラーメンを食べた後だったのですごく眠かったのだが、なんだか目が覚めた気がする。「ととのう」という言葉は、サウナではなく整骨院のためのものなのではないか。と、大のサウナ好きである私ですら思う。

そして撮影してもらったアフターの写真のイメージがこちら。ビフォーと並べてみる。

見るからに違った。

一時的ではあるのだろうが、体の歪みが取れているらしく、かなり姿勢が良くなっている。

この成果を踏まえて、先生からの営業が始まる。…来た。

身体が色々歪んでいるので、「足を組まずにはいられないでしょう?」と先生。

その通りである。私の場合、右足を組むと骨盤が正常な位置に戻るので楽らしい。確かに、仕事をしている時も、ご飯を食べる時も、電車に乗る時も、いつ間にか足を組んでは元に戻す、ということを日常的に繰り返していた。足を組んでしまうと、さらに骨盤が歪む悪循環に陥るという。なお、いまの私の状態が続くと、後々ヘルニアとかぎっくり腰になりやすいらしい。

1回あたり通常6000円する全身矯正が3回分無料、トータルの料金が大分お安くなる回数券、期間中何度でも来院できるフリーパスなど、ハードルを下げるプランをこれでもかと提示してくる先生。思えば、他のお客さんがいないエリアで施術をしたのも、愛想の良さそうな先生がついてくれたのも、結構なお値段のする1年間の全身矯正プランを私に売るための戦略だったのだと思う。

しかし、専門的な知識を分かりやすく丁寧に説明してくれたり、質問に的確に答えてくれたり、料金体系を事細かに説明してくれたり、不審に思うような点はなく、何事も斜めから穿ってものを見てしまう私も、不思議と悪い気にはならなかった。

生産性が確実に上がっている

結局、翌週に予約を入れ、2回目、3回目、4回目とコンスタントに通院することになった。回を重ねるごとに、普通に座っていることが苦ではなくなっていく。

在宅勤務でデスクワークの私は、これまで足を組んだり、椅子の後ろにだらっともたれかかったり、客観的に見るとおよそ仕事をしているとは思えない態勢が普通になってしまっていた。ムズムズして長い時間同じ姿勢で座っていられないので、30分もすると立ち上がって、尿意もさしてないのにトイレに行く。

ひたすら集中してデスクの前で仕事をこなしていた新卒1年目のあの頃と比べると、考えられないほど集中力に欠けている。今までは、それを在宅勤務で監視の目がなくなったことや、年次が上がったことによって緊張感が低下したことが原因だと勝手に思っていたが、そうではなかったのかもしれない。

単に、体が歪んで姿勢が悪かっただけ、なのだ。現に今では、仕事中は二本足をどっしりと地面について、あまり動くことなくパソコンの前で集中することができている。2時間くらいは、席を立たずにいることすらある。確実に、生産性がアップしている。

まさか、マッサージの代わりに行った整骨院のおかげで、仕事の生産性が上がるなんて。低迷を続ける日本のGDP回復の鍵は、整骨院が握っているのかもしれない。

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