笑ってしまうこと、笑わないでいること〜Aマッソ「滑稽」/劇団かもめんたる「奇事故」
空前のお笑いブームの真っ只中において頻繁にお笑いライブやバラエティ番組で"笑い"に接するとそもそも"笑い"とは何か、とふと考えることも増えた。そういう思考にさせるお笑いが沢山増えたことも影響しているだろう。この3月、たまたま同じタイミングで配信されていた2本の作品もまた何で笑い、何を笑っているのか、ということをこちらに問うてくる"笑い"だった。
Aマッソ『滑稽』
Aマッソがテレビ東京の大森時生プロデューサーとタッグを組んで開催したライブ「滑稽」。大森氏と言えば、2021年末の「Aマッソの奥様ッソ!」、2022年末の「このテープ、持ってないですか?」というバラエティの皮を被った恐怖番組を手掛ける気鋭の若手テレビマンで、「観た人が吐き気を催すものを作りたい」という特殊な欲に突き動かされているクリエイターだ。
「滑稽」はAマッソらしい尖ったコントの合間に、新興宗教「Affirmation」の活動模様を映し出したVTRが流れる。"笑う"ことを肯定し、"笑い"による魂の救済を信条に掲げるカルト教団のように見える。そのVTR中で語られる「潜在的優越感」という言葉や、「他者/自分の滑稽さを嘲笑する」「他者/自分のトラウマを嘲笑する」という行為は、そのままお笑いライブを笑いながら観ている自分にも刺さっていき、どうにも居心地が悪い気分になる。
そういえばこの日のAマッソのネタは、どこかその笑う/笑えないのグレーを行くような不謹慎で悪意のあるものが多かったように思う。そんなことを想い始めると、この世のあらゆる”お笑い"なんて、自分の考えの外にある思考や人としてのズレを笑っている、いや嘲笑っているだけなのでは?という気にもなってきてしまう。困惑の中、VTRもライブも徐々に混沌としていく。
そして迎える最悪の結末。"笑い"というのは、1つの感情に支配されている、一時的な催眠状態とも言えるだろう。そこで意識はどこかに飛ばされ、何か神秘に触れているような気分にもなる。自分の不安や、傷を隠そうとして笑おうとすればするほどに、"笑い"の悪い陶酔感は高まっていくものだろう。それを一つの舞台作品として、そして批評として成立させる、恐るべき現実への介入をもたらすセレモニーだった。笑ってしまうことの不気味さ。
劇団かもめんたる第12回公演『奇事故』
そして、もう1本は劇団かもめんたるの「奇事故」。こちらは「滑稽」のような現実へと介入してくるようなアプローチはなく、舞台上でしっかりと完結しているストレートな演劇作品だ。催眠術によって"海賊の船長"であると暗示をかけられたまま、催眠術師が死んだことで催眠が解けずに"海賊の船長"として大人になってしまった雉子(きじこ)という少女の物語である。
海賊として振る舞い続ける雉子の姿はやはり面白く見えるし、父親を演じる岩崎う大の戸惑いと切実に満ちた言葉たちはキレキレでそれもまたとても面白い。しかし巻き起こっている事象は、治しようのない妄想を抱えた娘とその家族の物語であり、とても笑ってはいられない。そういう家族のことを職業柄よく見ているからこそ、その苦しさはリアリティをもって伝わる。
この作品でもカルト宗教を扱うセクションがあった。そこでは何の役にも立たない救いとして描かれていた。「奇事故」に通底しているのは、奇妙な事故に巻き込まれ、その辛さを背負ったまま抱きしめていく不格好だが大きな愛の形だった。周囲の人物は決して海賊としての雉子を笑わず、海賊船の船員として寄り添い続ける。笑わないでいる、と決めた彼らが、海賊として振る舞い続ける姿を観て笑ってしまう自分についてぐるぐると考えてしまう。
かもめんたると言えば、倫理観を疑うような発想とどぎつい設定のネタを持ち味であり、その表現を拡張するようにして劇団かもめんたるが発足した。岩崎う大の描く世界は心的な意味でグロテスクなものが多いが、劇団としての作品はそこに生きることの悲哀や苦味が滲むものが増えてきた。その局面で真っ直ぐに、ズレた人々を抱きしめる表現として"笑い"を選んだそのスタンスに感銘を受けたからこそ、思いっきり笑って最後に泣けたのだと思う。
一方は笑えることを笑うことの怖さ、一方は笑えないことを笑うことの優しさを描いている。もしかすると人によっては、どっちが笑えて、どっちが笑えないのか、という話にもなってくるだろう。そんな”笑い"の不確かさな魅力を求め、私たちは"笑い"を求めてしまう。元に戻せない"笑い"のツボを胸に抱えたまま、"笑い"を起こすためのコンテンツを観続けてしまう。脳の報酬系を満たすために"笑い"に支配されているのかもしれない。その喜びを知った以上、頭を抱えてもなお、笑い続けることしか選べないのだ。
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