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一人暮らしの娘へ、母からのメッセージ【柚木麻子】
私が一人暮らしをしていたとき、母はよく、一人暮らしの女性が登場する本やドラマの話をしてきた。
丁寧な暮らしをしている可愛らしい女の子ドラマを見たときは、「明子ちゃんもこんなふうに暮らしてるのかなって思いながら見たよ」と言っていた。
(母よ、残念ながら娘の部屋はそんなにおしゃれじゃないし、自炊もしてないよ)
趣味に打ち込む女性が主人公のドラマを見たときは、「明子ちゃんも、こういう人になりたいんでしょ」とニコニコしながら言っていた。
(母よ、私はそこまでアクティブでもないし、そんなに自由に使えるお金もないよ)
どこか的外れなことばかり言う母だったが、「一人暮らしの女の子」というだけで、離れて暮らす私のことを思い出してくれていたのは、素直にうれしかった。
そんな母がすすめてくれた本のひとつに、柚木麻子さんの『ランチのあっこちゃん』シリーズがある。
派遣社員の三智子と上司のアッコさんとが、一週間、ランチを交換することになる。
美智子は、アッコさんからの課題をクリアしていき、その一週間で大切なことをたくさん学ぶ。
「まさか、本当に五日間やり通すとはねえ。おまけに見たこと聞いたこと、全部自分の糧にして。そのしぶとさがあればどんなオフィスでも戦っていける。大人しそうな顔してるくせに、あなたって面白い子よね。本当に飽きないわ」
人との出会いによって、人間は変われる。
一週間あれば、人は変われる。
変わろうとすれば、変われる。
私は、「仕事を頑張る人の背中を押してくれる小説」だと思ったが、母にそう伝えると、「え、温かくておいしいもの食べる小説でしょ?」と言われた。
そのとき、ようやく気づいた。
ああ、母は私に「ちゃんとご飯を食べてほしい」というメッセージを伝えたかったのか。
気づいた瞬間、涙がこぼれた。
▼アッコちゃんシリーズ全部好きです。
母がすすめてくれる本は、単なる「おすすめ」ではなく、その時々の私へのメッセージだったのだ。
言葉で直接伝えるのは照れくさいことも、本を通せば自然に伝えられる。
母がすすめてくれた本には、そのときの私に必要なものが詰まっていた。
今でも、本を開くたびに母の気持ちにそっと触れたような気がして、あたたかい気持ちになる。
私と母との間に「本」という共通言語があって、ほんとうによかった。
そんなふうに柚木さんの本が心に残り、今ではPodcast「Y2K新書」も聴くようになった。
柚木さんがこんなに面白い人だったとは!
平成を生きたみなさん、懐かしさ満点で楽しいし、価値観のアップデートもできるので、ぜひ聴いてみてください。
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