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夫婦愛の真髄に触れる本
本選びについて聞かれることがある。
私のおすすめは”信頼できる人がおすすめする本を読む”こと。
私にとって信頼できる人というのは、家族と友達、好きな作家、そして、好きな解説者だ。
解説者というのは、文庫の巻末にある「解説」を書いている人のこと。
私は本を買うとき、誰が解説を書いているかを必ずチェックする。
そして、信頼できる解説者が解説を書いている本は、とりあえず読んでみることにしている。
そうして出会った本が、城山三郎『そうか、もう君はいないのか』だ。
解説は、児玉清さん。
読書家の兄から「児玉清さんが解説を書いている本は、間違いなく面白い」と教えられて以来、児玉さんの解説には絶大な信頼を寄せている。
城山三郎さんといえば、経済小説や歴史小説のイメージが強い。
実際に私が読んだことがあったのは、『官僚たちの夏』と『わしの眼は十年先が見える: 大原孫三郎の生涯』の2冊だけ。
あまり知らない作家のエッセイには正直、あまり興味が持てなかったが、そこは児玉さんを信じて読んでみた。
児玉さんは、やっぱり間違いなかった。
これは、城山三郎という作家を深く知ることができるとともに、うつくしい夫婦愛が描かれた最高のエッセイだった。
せっかくなので、児玉さんの解説から、一部引用する。
癌であることが判明した。結果を持ち前の明るさで報告する容子さん。健気に振舞う容子さんをぎゅっと抱きしめ「大丈夫だ、大丈夫。おれがついてる」と「大丈夫」を連発する城山さん。いったい他にどんな慰めの言葉があるだろうか。僕はたまらず嗚咽した。
(城山三郎『そうか、もう君はいないのか』)
そう。この本を読みながら、私も嗚咽してしまった。
城山さんの容子さん(城山さんの妻)への深い愛には、涙を禁じ得なかった。
児玉さんの解説は、いつも過不足なく大切なことを伝えてくれる。
夫婦愛という言葉が薄れてゆく現代、お金がすべてに先行する今日、熟年離婚が当たり前のこととなりつつある中で、人を愛することの豊かさ、素晴らしさ、そして深い喜びをさり気なく真摯に教えてくれる城山文学の最終章をぜひ心で受けとめてもらいたいものだ。
私はこの本を読みながら、亡くなった父のことを思い出していた。
愛する人が先に逝ってしまう喪失感は、耐え難いものがある。
しかし、それほど大切な存在だったということでもあるのだろう。
『そうか、もう君はいないのか』は、愛することのうつくしさを見せてくれた、感涙の一冊だった。
この本に出会えて、ほんとうによかった。
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