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「文学フリマ大阪12」で買ったもの報告

 文学フリマというイベントに、人生ではじめて参加してみました。参加といっても出店したわけではなく、私はただのお客さんです。いつかは出店する方として参加してみたいと思う、今日この頃でございます。

 この文学フリマというイベントは読んで字の如く、文学作品を扱ったフリーマーケットです。ひとくちに文学といってもジャンルは多岐に渡り、公式にも記載されていますが、小説・短歌・俳句・詩・評論・エッセイ・ZINEなど、さまざまな形式の作品が出品されています。色とりどりの装丁が並んだ会場は、本好きなら一度は訪れたい夢のような場所です。

 文学フリマに参加したことがない方はどんなイベントなのかイメージを膨らませながら、参加したことがある方はあの空気を思い出しながら、少しだけ私の感想語りにお付き合いいただけたら嬉しいです。

まずは一周

 会場に到着後、まずは全ブースを一周することにした。【あ-01】から始めて、【ち-50】までぐるっと歩きながら見て回る。今回の文学フリマ大阪12に出店しているブースは実に800以上。バイキング形式の食事と同じで、下見をしておかないと前半で手一杯になってしまうだろう。この一周が今日の戦績を左右するはずだ。

 前半のブースは小説作品が多かった。受付でもらったブース一覧を見ると、約半数以上が小説カテゴリで出店している。並んでいる作品にはしっかりした純文学作品もあれば趣味全開のライトノベル作品があったり、あまり書店では見かけないLGBTQ+を前面に出した作品(いわゆるBL作品や百合作品ともまた違う)もあったりと、本当に幅が広い。フリーで配っている冊子を一冊受け取って、端の方でパラパラと読んでみた。中身は短編集になっていて、けっこうおもしろい。ただ小説は一冊読み切るのにそれなりに時間と体力が必要なので、購入のハードルは高いのかもしれないと思った。

 続いて評論系のパートに入る。目当てにしていたジャンルではなかったが、歩いていると興味深い作品がいくつか見つかった。小説の場合は趣味が合わないとなかなか手を出しづらいが、評論はあまり知らないテーマでも勉強のようなモチベーションで読んでみたくなるし、趣味がある分野なら即買いレベルでおもしろそうに見えたりもする。私はお笑いの評論本があったのでそれをチェックし、一周してもまだほしかったら買おうと思って先に進んだ。

 その次は、エッセイなんかのノンフィクションが並ぶパートになった。ここは楽しみにしていたジャンルの一つである。願わくば、小原晩さんのようなどストライクな作家さんに出会いたい。エッセイは好きだし日記本も読んでみたいと思っていたので、歩きながらもついつい何度も足を止めてしまう。今はあくまで一周目だと自分に言い聞かせて、サンプルをさらっと読んでは次のブースに進んでいくことにした。途中おもしろそうな日記本があったので、これはチェック。他にも良さげなZINEをいくつか見かけたので、このあたりは後でまた深掘りしようと思った。

 最後にあるのが詩歌のパート。私は短歌が好きなので、主に短歌が目当てだった。エッセイと同じくらいわくわくしていたところ。それに、普段Xで短歌を読んだり詠んだりしているので、もしかしたら知り合いがいるかもしれない。淡い期待を抱きながらいろいろ見て回っていると、京大短歌のブースを見つけた。一周目なのでまだここでは買わないが、後で絶対に買いに戻ってくるつもりだ。それから短歌以外に詩や俳句の作品もチェックして、一周目が終了した。


 さて、ここからは実際に私が購入した作品を、購入した順番に紹介していこうと思う。ちなみに、フリーペーパーもたくさん(13枚くらい)受け取ったのだが、長くなってしまうのでここでは割愛。

【す-16】かきのきいろは『おだかやでごきげんな毎日を過ごしたいのに、結局これが私のリアル』

表紙のイラストかわいい!

 一周目で気になっていた、かきのきいろはさんの日記本ブースを再び訪問。日記本にしては200ページ以上とかなりボリューミーではあるが、フリーで配られていた一日分の日記がおもしろくて興味を持っていた。

 ブースでかきのきいろはさんにお話を聞いてみると、なんとこちら、半年分の日記らしい。私も毎日日記を書いているが、半年分でこんな量になるだろうか。フリーの一日分を読んだ感じだとただ長いというわけではなく、タイトル通り「リアル」な生活や心情が描写されているような文章だった。

 お話を聞いてさらに興味が増したので、最初に購入するのはこの本にした。もしかしたら、半年かけて一日一話ずつ読んでいくというのもいいかもしれない。

【し-32】手条 萌『教養としてのお笑い評論、あるいは30年史。』

タイトルが気になりすぎる

 評論のコーナーでチェックしていた、手条 萌さんによるお笑いの評論本。ここのブースには他にも大阪吉本についての本や、漫才フリークから見たコントについての本、ワーキャーファンについての本など、お笑い付きからしたら気になりすぎる本が多数並んでいた。

 私は、何かに興味を持ったら、歴史から知りたくなるタイプのオタクだ。今までにどういう作品やプレイヤーがいて、どういう移り変わりを経てきたのか、それを知った上で今を享受したいと思っている。そのため、あまり語られる機会がなかった(ように感じていた)お笑い史についてまとめられているのは本当にありがたい。

 作者さんは東京にいながら大阪吉本、中でもマンゲキ(よしもと漫才劇場)所属の芸人さんが好きらしく、今イチ推しの芸人さんも教えてもらった。私は大阪にいながら大阪吉本からは少し心が離れていたので、これを機にまたマンゲキに行ってみようと思った。

【そ-12】京大短歌『京大短歌29』

洗&練

 さて、京大短歌である。短歌を読み(詠み)始めてまだ半年も経たない私であるが、京大短歌の躍進は風の便りに聞いていた。いや、新人賞の結果で一目瞭然だった気もする。京大短歌には私が推している早瀬はづきさんをはじめ気になっていた方が多数存在するので、ブースに行くだけでも少し緊張していた。

 ブースには『京大短歌29』の他にもフリーペーパーが置いてあった。それを詠みながら店番をされているお二人にご自身の歌があるか聞いたところ、なんと最初に答えてくれたのが早瀬さんその人だった。まさかのご本人登場でホップステップし始めた心臓を抑えつつ、小声で「いつも見てます」とだけお伝えすることができた。

 もう一人は一回生のあめもようさんという方で、フリーペーパーにXアカウントが載っていたので早速フォローした。短歌を初めて5ヶ月と、作歌歴は私とそう変わらない。にもかかわらず、掲載されていた歌はビギナーっぽさを感じさせないものだった。

こいのぼりの鎖骨を撫でた春風が赤子の頬も撫でていたこと/あめもよう

ヴァニーユ キスも処刑も戴冠もなされるときは瞼を下ろす/早瀬はづき

京大短歌フリーペーパー

【せ-15,16】美大生とコンサルとテレビマン『ふとした、野菜との暮らし』『magazine』『写真』

いっぱい買っちった

 ふらっと訪れたこのブースが、今日一番楽しんだ場所になった。もうずっとここにいたかったけど、さすがに迷惑なので出ていくことにしたというほどだ。はじめは、綺麗な絵に惹かれて足を止めた。青がたくさん使われている、野菜の水彩画のような絵。お話を聞いてみると、野菜のサブスク(だけではないそうだが)をしている活動とコラボした、月毎の生活と野菜にイラストを添えた本らしい。あまりに綺麗で、即購入を決めた。

 その後もこのブースに興味を持ったのでいろいろ聞いてみた。ここはとある会社の元同僚たちの集まりで、現在はそれぞれが美大生、コンサル、テレビマンをしているらしい。美大生はプログラマーでもあり薬剤師資格も取得しているという、異色の経歴の持ち主。コンサルは普段は合理的に業務を遂行しながらも、フルサイズミラーレスカメラを引っ提げて写真を撮るのが好きらしい。テレビマンは後から合流していたので少ししか話せなかったが、いかにもテレビマンという感じの人だった。

 私は作品もそうだが、(はじめに話していた)美大生とコンサルへの興味が尽きなかった。美大生は天才でありながら人当たりのいい不思議な存在で、コンサルにはどこか自分と近しいものを勝手に感じていて、私はこの二人にすっかり魅了された。ここでは野菜のZINEと、美大生とコンサルの脳みその一端を知ることができそうな雑誌を購入した。やさしいコンサルは「二冊買ってくれたから」と言って、写真を一枚サービスしてくれた。私は、びびっときた一枚を手に取って、思い出としてありがたく頂戴することにした。

【す-20】ヤマコヤ『ニュージーランド旅行記』

Simple is best.

 一周目では「ニュージーランドのブースがあるなー」くらいにしか思っていなかったが、その後前を通った時にふと足を止めてみた。一緒に出店されていた方の本もおもしろそうだったが、私はこのヤマコヤさんの旅行記を購入した。

 私はそこまで旅好きの人間ではないので、旅行記にはそこまで興味がなかった(自分は書いたりしているくせに)。最初に気になったのは旅行記ではなく、フリーで配られていたニュージーランドの地図の方。手書きの地図に、ニュージーランドでの24日間の旅程が全て記されていた。しかもイラスト付きでかわいい。

 地図を手に取って眺めていると、ヤマコヤさんがニュージーランドについていろいろ教えてくれた。クラフトビールがたくさんあることや、キウィという鳥のこと、山登りに行った後のことなど本当にいろいろ。その話がとても魅力的だったので、本でも読んでみたいと思うようになった。

【せ-14】アンデパンダン『Indépendants vol.4』

一目で京都とわかる写真

「京都芸術大学のメンバーで制作した雑誌です」という声が聞こえてきて立ち止まった。大学生時代に京都に住んでいた時、京都造形芸術大学は聞いたことがあったが京都芸術大学は聞いたことがなかった。

 気になったので聞いてみたところ、京都造形芸術大学が名称変更して京都芸術大学になったらしい。造形には友人がいたし、会社の先輩にも造形出身の人がいるので、縁を感じて購入することにした。内容も京都から行く旅の特集なので、京都付きの私にはぴったりだった。

 その場でもぺらぺらめくっていたところ、鴨川デルタの文字が書かれたページで指が止まった。どうやら私は、いつまで経っても鴨川デルタから卒業することができないようだ。こんな本を読んでいると、また京都へのホームシックに陥ってしまいそうだ。

【そ-15】花野菜『花野菜 vol.1』

見覚えのあるお名前……

 なんとなく京大短歌の近くをまたうろうろしていたところ、花野菜のブースに目が留まった。花野菜とはどこかで聞いたことがあるなと思ったら、ネプリでの配信をしていたらしい。おそらくそれをX上で見たことがあったのだろう。

 花野菜はユニット名だったのでメンバーを見てみると、なにやらこちらも見覚えのある名前が並んでいる。特に津島ひたちさんと武田歩さんは確実にどこかで短歌を読んだことがあった。が、どこだったかは思い出せない。気になりながら店番のお二人にお名前を聞いてみると、まさかの津島ひたちさんと武田歩さんで、本日二度目のびっくり。何かの縁も感じたので、こちらも購入することに決めた。

 その後ぷらぷら歩いている時に思い出したのだが、お二人ともU-25短歌選手権の予選通過者だった。そりゃあ見覚えがあるはずだ。誌面でも名前を見たし、noteで作品も読んだ。その場で思い出せなかったことが心残りで、その後ブースの前を通った時にお二人の作品を読んだことがあるとお伝えした。今思えば、独りよがりで迷惑だったかもしれない。

【す-22】わらび『銭湯か映画館しか知らない』

このサイズ感よ

 探していたようなエッセイ本に、最後の最後で出会うことができた。大阪の大学生であるわらびさんの作品。小原晩さんの『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』を彷彿とさせるサイズ感のエッセイ本で、見つけた時から私の中で期待が急上昇していった。

 フリーペーパーで一話読むことができたので手に取ってみたところ、前提にある時代感とか、育ってきた環境とか、なんとなくの目の付け所とか、私は自分とかなり近いところにいる人だと思った。世代が近くて、大学生だからかもしれない。そういう意味で、わらびさんのエッセイからは他のエッセイとはまた別のおもしろみを感じていた。

 フリーペーパーにnoteのIDも書かれていたので検索してみると、以前にもわらびさんの文章を読んだことがあることがわかった。就活の話。その時にもおもしろい文体だなーと思っていたので、ここで勝手に再会したような気持ちになった。

帰り道

 パンパンになったトートバッグが重い。じわりじわりと肩に食い込んでくる。ちょっと買いすぎたような気もするが、気分はすこぶるいい。この重みも、近い未来の喜びになってくれるはずだ。次は出品者として来れたらいいな。それができるかは、私次第でしかないのだけれど。



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