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映画『湯道』はいろんな角度から楽しめる、味わい深い作品です!

チャンネルNECOで放送された映画『湯道』を観てみました。

生田斗真演じる建築家・三浦史朗と、濱田岳演じる実家の古びた「まるきん温泉」という名の銭湯を切り盛りしている弟・悟朗の兄弟を中心にストーリーは展開していきます。

史朗は仕事が上手くいかず、突然実家に戻ってきました。目的は実家の銭湯を畳んで土地を売って、マンションに立て替える提案をするため。

史朗と悟朗は犬猿の仲。父親の葬式にも来なかった史朗に対して、素直になれないのも当然でしょう。

お客が減る一方で、相続税も高過ぎる…こんな商売早く辞めた方がいいと史朗が考えたマンションプランを悟朗に渡すと、それを薪と一緒にあっさり燃やされてしまい二人は取っ組み合いの大ゲンカ。

銭湯の中での兄弟ゲンカは見所の一つでしたね。映画の宣伝で一番印象に残っているシーンは?と聞かれ、生田斗真も濱田岳も二人ともこのシーンをあげていた記憶があります。

男湯と女湯を行き来しての服を着たまま″びしょ濡れ″の演技は、観ているよりもはるかに大変だったと思います。

このケンカのせいでボイラー室でボヤ騒ぎが起こり、巻き込まれた悟朗は入院。

悟朗は入院している間にじっくり考えた末、兄の史朗の言い分は「もっともだ」と言い出しました。実は父親は母親の最期を見届けられなかったことを後悔していたらしく、「まるきん」は継がずに売却してほしいという手紙を書き残していました。

悟朗は「おやじは誰よりもこの仕事の限界が分かっていた。おやじが死んでも続けてきたのは俺のエゴだったのかな…」とポツリ。

銭湯を閉めると知った、住み込みで働いていた橋本環奈演じる"銭湯大好き"ないづみは、その話の翌日姿を消してしまい…。

家のお風呂の工事中で銭湯に通う小日向文世演じる定年間近の郵便職員・横山が、自分の学んでいる「湯道」の家元が″人生一の湯″と言った「くれない茶屋」のことをいづみが興味を持っていたので、そこに行ったかもしれないと。

そこでいづみを「くれない茶屋」まで探しに行った史朗と悟朗。

二人は自然の中にある「くれない茶屋」の五右衛門風呂にどうしても入りたくなり、二人で協力して川に水を汲みに行き、薪を拾ってお風呂を炊き、5時間かけてやっとお風呂に入ることができました。いろんな出来事を経て、二人の距離はいつの間に縮まっていました。

そこにいづみの姿が!実はいづみは「くれない茶屋」の孫娘でした。お店を閉める最後の最後まで手を抜かず全力で、でも普通にやりたいという悟朗の言葉にいづみは二人と一緒に「まるきん温泉」へ戻りました。

この銭湯の常連さんたちがバラエティーに富んでいて、映画の雰囲気を盛り上げてくれていました。みんな「まるきん温泉」を愛しているその気持ちが伝わってきて、何度もホロリとさせられました。

いつも美声を聴かせてくれるおばさん(天童よしみなので、そりゃ抜群に上手い)と″務所帰り″のそのおばさんの夫(クリス・ハートなのでこれまた上手い)。まるきん名物「響き桶」を生み出してくれたケンカしながらも仲良し夫婦、お風呂を出たら牛乳とフルーツ牛乳を仲良く飲む老夫婦etc…。それぞれのお客さんのエピソードもうまく散りばめられていました。

「響き桶」とは例えば夫婦で銭湯に行って「お風呂上がる?(どう?)」と確認するのに桶を2回「コンコン」と湯船に打ちつけて、「Yes」なら1回「コン(うん)」、「No」なら3回「コンコンコン(まだね)」と返事をするというやり取りのこと。夫婦で温泉に行った時とかも、こういうのあれば伝えやすいですよね(笑)。

「源泉掛け流し至上主義者」で銭湯を認めていない吉田鋼太郎演じる温泉評論家・太田与一が、次の自分の著書のテーマ「銭湯」のために「まるきん温泉」を訪ねてきた時の横山とのやり取りが印象に残っています。

「私の次の本で、ここを取り上げてやってもいいかなと思ってね。昭和の遺物として。私の本に載れば歴史に名前が残るぞ。良かったじゃないか。ハハハ」
「太田与一先生。今日はお目にかかれて光栄です」
「なんだ君は」
「先生のご著書を拝読しているただの風呂好きです」
「おお、それは嬉しいね」
「源泉掛け流し至上主義を貫いていらっしゃる先生のお姿、私には眩しすぎます」
「そうかね」
「ただ私は一つだけ思うのです。素晴らしい湯を見極める目を持つ先生より、どんな湯も素晴らしいと思える私たちの方が幸せじゃないかと。ここは昭和の遺物なんかじゃありません。むしろ、未来に必要なお風呂です」
「湯のなんたるかも知らんくせに、ただの沸かし湯になんの価値があるんだ?」

映画『湯道』より

その後、常連さんたちが太田に対してこの銭湯がどれだけ素晴らしいのかを次々に伝えていきました。その一連のやり取りを聞いて、

いづみ「それぞれの想い、素敵だと思いません?それがまたお風呂でつながる…。ここで生まれた絆はずっと続いていく。『まるきん』が失くなっても」

「失くなる?」(常連さんみんな)

悟朗「ありがとうございました。あなたのおかげで気がつきました。湯で人を幸せにするという幸せを」
史朗「そして、この場所の尊さを。ここは遺物じゃない!」

風呂仙人「湯の本質がなんだか分かるか?成分より大切なものは、心の洗濯だ。心を洗い、人を無垢にして絆を深める。湯で貴賤なーーし!ここはあんたの来るところでない」

映画『湯道』より

その夜、史朗と悟朗といづみ。三人で銭湯の湯に浸かり、いづみが桶を2回「コンコン(まるきん、続けるの?)」と。二人の返事は桶1回「コン(はい!)」でした。このシーン微笑ましくて良かったです。

柄本明演じる″風呂仙人″と呼ばれる謎の男性、要所要所で現れては「まるきん温泉」を助けれくれた救世主でした。

実は″風呂仙人″、横山の通っていた「湯道」の家元・二之湯薫明の弟でした。一番弟子と思われる窪田正孝演じる梶斉秋が止める中、″風呂仙人″は病床から抱き上げ薫明を風呂に投げ入れました。

湯の中で幸せそうな薫明を見ながら、″風呂仙人″は問いかけました。

「アニキ、湯道とはなんだ?」
「たかが、風呂。道とあがめるまやかしだ」
「まやかし…」
「人が何をどう思うか、正解は全部自分の中にある。やっぱりいいなー風呂は」

映画『湯道』より

横山が「お風呂について深く顧みる」という「湯道」の世界に魅せられ、湯道会館で入浴の所作を学んでいるシーンが何度か出てきましたが、「湯道」の所作を真剣に学んでいるシーンは真面目ゆえの面白さがありました。ホームページには映画の中にも出てきた「湯道の所作」も解説されていて、なかなかこれが興味深かったりします。

その横山が一番望んでいた「家のお風呂を檜風呂にしたい」という夢を家族が叶えてくれて、その檜風呂に満面の笑顔で入浴する横山の姿が忘れられません。

薫明亡き後、二之湯流を継いだ″風呂仙人″。弟子たちの前で、

「湯とは何かとと問われれば、私は太陽だと答えます。心の中を照らす、お日様のような存在。その想いを今、みなさんに届けましょう。湯はマイ・サンシャイン!」

映画『湯道』より

そして、映画のエンドロール。登場人物全員で「You are my sunshine」を歌い始めた時には大笑いでした。

この映画、脚本は『おくりびと』を書いた小山薫堂氏。ご本人が「茶道」「華道」などと並んで「湯道」を日本文化へと昇華させるべく、2020年に「一般社団法人湯道文化振興会」まで設立されたそうです!この映画はまさに「湯道」を世に広めるためのフックでもあるわけですね。

私自身お湯に浸かるのは大好きだし、この映画を観終わって銭湯の大きな湯船に身を預けたくなりました(笑)。

コメディーではありますが、人情物語でもあり、「湯道」も学べて一石なん鳥にも楽しめる映画『湯道』。肩の力を抜いて観られる娯楽作になっていると思います。

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