世界のすべての七月
【出版社Web(もしくは裏表紙)より】
30年ぶりの同窓会に集う1969年卒業の男女。結婚して離婚してキャリアを積んで……。封印された記憶、古傷だらけの心と身体、見果てぬ夢と苦い笑いを抱いて再会した11人。ラヴ&ピースは遠い日のこと、挫折と幻滅を語りつつなおHappy Endingを求めて苦闘する同時代人のクロニクルを描き尽して鮮烈な感動を呼ぶ傑作長篇。
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登場人物はみな、哀しみをかかえているよう。
今みたいに何かを錯覚しながら積み上げていくようなものじゃなくて、強烈な喪失の埋め合わせとしての理想の渇望というか。この世代の人たちには共通したそういうものがあったのかもしれない。
ティム・オブライエンの小説の中には、戦争体験からくるショックやそこからの自己救済がいつもうかがえる。だけどその点でいうとサリンジャーとは異なっていて、大きなメッセージを発しているというふうではない。あんまりまとまりはないし、どこかにたどりつくわけでもない。たどりつこうとしているわけでもなさそう。
ただ、どの作品にも余剰のエネルギーの残響というか、それがコミカルに出てくるのが好き。
本作も微妙にぶっとんでいる人が何人かでてきて笑わせてもらった。
ポーレット・ハズロというパートタイム牧師(女性)が、不倫相手との手紙を盗もうと、その妻(聴覚障がい者)の家に夜中に忍び込む話がある。その妻はもちろん、牧師が夜中にこそこそ何やっとんねん!きこえとるぞわれ!と迫るわけだが、それに対して整然と迫る牧師がなかなかシュールで滑稽。後日譚(@同窓会)として、その不倫相手と人里離れたヒッピー・ヨーガの会に混ざり共に覚醒していく話もえらいおもしろかった。
「痩せすぎている」という話では、執拗なダイエットを試みるモップや箒の販売会社を経営するマーヴ・バーテルが登場。秘書の女性に迫り、実は自分は隠とん大物作家(決して顔は外に出さない)「トマス・ピアース」なのだという話をでっちあげていく。秘書はそれを誇りに思うが、少しずつ化けの皮が剥がされていく。マーヴのでっちあげはエスカレートし、その語りがいかにも作家!という感じでおもしろい。語るほどに自身に酔っていく。コントみたいな感じ。秘書からの応戦もあり実におもろい。トマス・ピアース。トマス・ピンチョンがモチーフっぽい。
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日常生活では出くわしそうもない人たちばかりの衝撃の笑劇。
こういうものに触れていることの効用としては、少しずついろんなことを笑いとばしていけるようになるということです。
笑ってもいいんじゃないかと思えることで、またひとつ大きな人間になった気がします。
オブライエンの話に出てくる人たちは、一所懸命な人たちが多い。それも魅力です。
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