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宿命を背負った者は倒れても必ずはい上がる。ヤクルトの奥川投手が980日ぶりの1軍勝利。度重なるケガに屈しない。石川県、そして野球ファンに勇気を与える好投

宿命を背負った者は倒れても必ずはい上がる。ヤクルトの奥川恭伸投手(23)のことを思う。石川県出身のプロ5年目右腕。高校時代から地元、そして野球ファンの期待を一身に背負ってきた。度重なるケガにも屈しなかった。そして980日ぶりに1軍の勝利投手となった。苦境にいる石川県、そしてヤクルトへ勇気を与える復活劇だった。

ツバメの「18」がマウンドに帰ってきた。大阪で14日に行われたセパ交流戦。ヤクルトは昨季のパリーグ王者オリックスを相手に、奥川投手を先発に起用した。

2002年3月29日以来808日ぶりの1軍登板。奥川投手は初回から走者を出すなどピンチの連続。しかし、この日の最速151キロの直球に、スライダー、カーブ、フォークを交えて、危機を脱出した。

5回を79球。7本のヒットを許しながら、失点は四回に浴びたその本塁打による1点のみ。四死球ゼロと無駄な走者を出さずに最少失点でマウンドを下りた。

4-1と3点リードの六回以降、リリーフ陣5人も相手の反撃を2点に抑えた。九回にはヤクルトのオスナ選手がソロを放ち、貴重な追加点。5-3とヤクルトが競り勝ち、奥川投手に2021年10月8日以来となる白星がついた。

高校時代から期待を背負う投手だった。石川の星稜高校のエースとして、2019年夏の甲子園の決勝マウンドに立った。

春夏通じて石川県勢の甲子園優勝はない。そして星稜高校は聖地で幾たびと名勝負を演じた。「ゴジラ」松井秀喜さんもOB。地元石川県の人たちだけでなく、高校野球ファンからも熱いまなざしを受けてきた。

あと一歩で深紅の大優勝旗を逃したが、奥川投手への期待はさらに高まった。その年のドラフト会議でヤクルトから1位指名を受けて入団。「日本一」はプロ選手として。奥川投手は勝つ宿命を背負うこととなった。

2年目のシーズン。奥川投手はエース級の活躍を見せる。前年最下位だったチームがリーグ優勝する離れ業に貢献。日本シリーズ初戦の先発マウンドに立つなど、チームに勝つための勇気を与えた。そしてチームは20年ぶりの頂点に。

しかし奥川投手は以後、右ひじを痛め、右足首を骨折するなど、2022年からの2シーズンで1軍登板はたった1試合のみだった。今季も腰痛で調整が遅れていた。

それでも奥川投手は苦境に屈しなかった。今年の元日に地元石川県で大地震が起きた。「今年は石川県のみなさんのためにも頑張るって決めたシーズンだった」と振り返る。

980日ぶりの勝利。試合後のインタビューで「期待してもらっている中、すごい長い時間待たせてしまった」と涙があふれた。

地元石川県の人たちに勇気を与え、野球ファンに感謝の思いを込めたピッチング。だからピンチを背負っても屈しなかった。

「勝つ」宿命を背負った奥川投手。被災生活を送る地元の人たち、そして野球ファンのために、これからも勇気を与えるピッチングを見せてほしい。

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