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年齢を理由に諦めない話

 生老病死は不可避の宿命です。

 人は必ず老い、病み、死を迎えます。然れども天寿の有り様は千差万別であって、実年齢のみで線引きできるような代物ではありません。加齢によって何が起き、故にどうなのかという視点を私は重視します。

 ある日、100歳に近い老女の診療相談を受けました。新型コロナウイルス感染症を罹患して肺炎を発症して2週間、一向に改善せず治療に難渋しているといいます。元々は自宅で生活できていた方で、家族は「積極的治療」を希望しているとのこと。

 さて、100歳に高度集中治療の適応があるのか、という疑問に応える必要があります。

 例えば本邦の第一線の専門家集団から提言されることには、重症COVID-19による呼吸不全の場合、膜型人工肺ECMOの適応となり得るのは65歳迄です。その年齢を超えると治療の侵襲に身体が耐え切れず合併症で亡くなる危険性が上がるうえに治療成功率も低く、多大なリスクを理由に「行うべきでない」という推奨があります。

 では、侵襲的でない内科的治療はどうでしょう。

 個人的には治療に年齢制限はないと考えます。呼吸器内科学における私の恩師は感染症学を専門とする人で、口癖のように「治さなくていい感染症は無い」と言っていました。私もその考えに則って、人道的医療の範疇で積極的治療を提案します。

 私は100歳の老女の診療を引き継ぎました。

 科学的根拠に基づく西洋医学を基盤に、東洋医学を自在に組み合わせて診療を組み立てます。其々に得意分野が異なりますから、何方も重要です。相当のウイルス性肺炎がありましたから、抗炎症療法を主体に治療を急ぎます。同時に脈と腹をみれば少陽病に微小循環障害もあることが明らかで、適する柴胡剤に駆瘀血剤を併用します。

 果たして彼女は劇的な回復経過を辿り、矍鑠たる雰囲気を取り戻していきました。酸素投与も要らず、食事を全量摂取され、リハビリテーションを経て元の生活への復帰です。


 転院前には「もう高齢だから治療はできない。治るかどうかは体力次第」と云われたそうです。ご家族が憤りながら話してくださいました。ご家族の主体的経験による情報ですから、実際の医師の発言内容や意図は分かりません。しかしながら、そう受け取られてしまったことは事実であって、それは医療の在り方として余りにも無味乾燥と感じます。


 これは正解のない、しかし思考と対話の必要な問題です。最期の瞬間に蘇生処置や延命治療を希望しないことと、病気に対して何も治療しないこととは全く異なる概念です。

 人生100年…あるか分からないけれど、幕の引き方を考える時間は、きっと人生を豊かにしてくれると思います。



 拙文に最後までお付き合い頂き、誠にありがとうございました。願わくは、生きとし生けるものたちが、天寿を全うできますように。



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渡邊惺仁
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