星新一と小論文、模倣の風景
私と星新一先生の作品との邂逅は、小学5年生の夏でした。
宮沢賢治をはじめ基本的な児童文学に触れながら、ミヒャエル・エンデから海外文学作品にも手を伸ばして次々と読んでいたその頃、短編よりさらに短い「ショートショート」との出会いは衝撃的なものでした。
この短さに凝集された物語。
それ一本で長編も書けそうなアイデアが次々と繰り広げられる世界に、私は夢中になりました。小学校を卒業するまでには「1001編」と称される星新一作品を読了し、すっかり星新一然とした思考に染まっていました。
同時期に私が手を伸ばしたのは筒井康隆先生の作品でした。短編に没頭し、長編では七瀬シリーズを好みました。
中学に入ると興味の範囲は文学作品から哲学書や幾つかの領域の専門書に広がっていきましたが、やはり根底には「星新一」と「筒井康隆」が流れていました。
高校受験に向けた小論文の添削中のこと。
先生から質問を受けました。
「渡邊くん、好きな作家は?」
急にどうしたことかと思いながら、私は素直に応えます。
「色々読みますが、一番は星新一です。それから筒井康隆。」
それを聞いた先生は楽しそうに笑いました。
「やっぱりか!あのな、星新一を読んでいると、書く文章も星新一みたいになってくるんだ。そうなんじゃないかなぁと思ったら、そうか、星新一か。筒井康隆もわかるよ。君はそうだろうなぁ。でもね、小論文には向かないよ。」
穏やかな表情で、先生はそう言いました。
好きな作家さんがいると、自分では気づかないうちに書き方が寄ってくること。それ自体は悪いことではないけれど、試験を考えた場合には、無自覚なら直した方がいいことを教えてくれました。
「君の小論文には、なぜか起承転結があるんだ。なんなら起承転結転とでもいおうか。オチがついてるんだよ。小論文は起承承結でいいんだ。奇抜な発想は求められていない。」
言われてみればそうかもしれないと、私は自分を振り返りました。自由に書くと、どうも期待される「常識」とはずれた方向に進むようで、それは採点される小論文には向かないものだと知りました。しかし身についた癖を直すのは容易なことではなくて、小論文で戦えるくらいに癖を抑えられるようになったのは、大学受験を控える頃でした。
自分らしさを考えたときに、誰かに似ていると言われることは大きな悩みになります。クリエイティブな領域では、個性がなければ、その道でプロとしてやっていくことは厳しい。一方で個性とは何かと考えたときに、すべての学習は模倣から始まりますから、どこかに「誰からしさ」が混ざっていてもいいんじゃあないか。そんな思いに至ります。
今も星新一然とした文章を読むと心が躍ります。
誰しもエヌ氏やエフ博士かもしれないのです。
するとキーボードを叩く音が軽妙に聞こえ、不意に視界が明るくなったように感じます。
拙文に最後までお付き合い頂き誠にありがとうございました。願わくは、貴方の文字世界が好きで溢れ、満たされた心が華やかに輝きますように。
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